この眼鏡っ娘マンガがすごい!第82回:竹本泉「トゥインクルスターのんのんじー」

竹本泉「トゥインクルスターのんのんじー」

白泉社『ヤングアニマル』1993年17号~

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1990年代初頭に竹本泉が男性向け媒体に進出したことは、個人的にはかなり衝撃だった。特に1993年に開始された本作のインパクトは、劇的に強烈だった。この1993年という年は、CLAMPが『なかよし』で「魔法戦士レイアース」の連載を始めた年でもある。『なかよし』でデビューした竹本泉が青年誌に進出したタイミングでほぼ同時にCLAMPが『なかよし』に侵入した事実は、少女マンガ技法と「萌え」の本質的な関係を考える上で、象徴的な意味を持つ。1993年の段階で、少女マンガ技法は一部の限られた数寄者の独占物を超え、広く一般化したのだ。少女マンガ技法の一般化は、「萌え」が一般化するための技術的前提となっていく。「萌え」というものを技術的に考える上で本作の持つ意味は計り知れないほど大きい。そしてもちろん、その重要性は本作のヒロインが眼鏡であることによって決定的になる。

082_02本作のヒロインは、眼鏡っ娘考古学者のノンノンジー18歳。舞台は西暦2264年だが、ちゃんと眼鏡は健在だ。ただノンノンジーは近眼というわけではなく、魔眼を封じるための暗示アイテムとして眼鏡を着用している。まあ、理由はどうでもよい。眼鏡っ娘であるという事実だけが決定的に重要だ。とにかく、この眼鏡っ娘が、かわいい。問答無用で、かわいい。作者が蓄積してきた少女マンガ技法が存分に発揮された、圧倒的なかわいさだ。これが、「萌え」だ。竹本泉の青年誌進出は、少女マンガ技法が決定的に「萌え」として定着した瞬間だった。少女マンガ技法の男性媒体への輸入が「萌え」の技術的前提となる。「萌え」という概念について様々な論者による様々な定義がなされてきたが、私から見ればそれは「少女マンガ技法が発する情報を処理しきれない男性視点が行う情報縮減」でファイナルアンサーであり、東浩紀が言うようなデータベース消費等の説明は残念ながらトンチンカンだ。東浩紀の言う「萌え要素」なるものの大半が少女マンガでは1970年代から既に存在していたことを視野に入れるだけで、物事の本質が見えやすくなる。

082_04さて、のんのんじーの潜在力は、10年後に出版された単行本の第2巻で遺憾なく発揮される。本編はいつもの竹本節なのだが、単行本に寄稿したゲストがものすごいメンツだった。50音順敬称略で、あさりよしとお、伊藤明弘、久米田康治、倉田英之、志村貴子、田丸浩史、鶴田謙二、中村博文、二宮ひかる、平野耕太、舛成孝二、陽気婢。一見して、眼鏡濃度の高い面子であることが分かるだろう。そして期待に違わず、眼鏡満足度はMAXだ。このゲストたちがノンノンジーを描き、竹本泉が各ゲストのリクエストにこたえてイラストを描く。この単行本2巻は、ノンノンジーという一つの作品であることを超え、眼鏡描画技術そのものを考察するうえで極めて示唆に富む貴重なカタログとなっている。のんのんじー2巻抜きでは眼鏡「萌え」というものを語ることは不可能だろうという、歴史的必須資料といってよい。扉絵の、のんのんじーコスプレ大集合とか、すごすぎる。指で目尻を下げて読子のマネをしているノンノンジーときたら、ああっ、もう!

ということで内容的にも形式的にも時期的にも「萌え」というものを考える上で極めて重要な作品であることは間違いない。そしてそんな作品のヒロインが眼鏡っ娘であるという事実について人々は真摯に受け止める必要があるだろう。

■書誌情報

いまのところ単行本2冊。初登場から20年経った今も完結していないが、今後どうなるのか?

単行本:竹本泉『トゥインクルスターのんのんじー』実質第1巻(白泉社、1994年)
単行本:竹本泉『トゥインクルスターのんのんじーEX』実質第2巻(白泉社、2004年)

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第10回:西川魯介「SF/フェチ・スナッチャー」

西川魯介「SF/フェチ・スナッチャー」

白泉社『ヤングアニマル』1997年楽園増刊Vol.1~2000年増刊嵐Vol.4

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言わずと知れたメガネっこマイスター・西川魯介の傑作メガネSF。
主人公の女子高生・栗本玻瑠(くりもとはる)は眼鏡っ娘。その眼鏡っ娘がかけているメガネは、宇宙刑事だった! 犯人どもを追跡して地球に不時着したメガネ型の宇宙刑事は玻瑠に寄生し、宇宙の平和を乱す逃亡犯を追い続ける。敵は、上靴型やスクール水着型やブルマ型など、地球の物体に潜伏している。それを発見するには、地球人の唾液が試薬としてもっとも有効だった。ということで、逃亡犯を発見するために、玻瑠はブルマや上靴をぺろぺろ舐めるのだ・・・。

010_02うーん、なんと素晴らしい設定だろうか。この設定のおかげで、嫌がる眼鏡っ娘に自発的にブルマや上靴をぺろぺろと舐めさせることが、完全に合理的に実現できるのだ!すごい!
もちろんそういうフェティッシュな楽しみだけではなく、知っている人ならニヤリと笑えるディープなSFネタが満載されていて、何度読んでも楽しめる。知的でHENTAIな作品なのだ。

010_03逃亡犯の設定も毎回おかしい。主人公がかわいい眼鏡っ娘で既におなかいっぱいなのに、これでもかとさらに眼鏡っ娘を投入してくる。ありがとうありがとう。

こういった作品を読むにつけ、西川魯介が代わりのきかない作家であることを再認識する。西川魯介作品は、他の作家が逆立ちして地球を一周しようと絶対に生み出すことが不可能な作品ばかりだ。それらの中でも、この作品は、真摯に眼鏡と向き合った末に、とうとう眼鏡に愛された者だけが辿り着いた境地のように思える。眼鏡っ娘好きなら絶対に見逃すことのできない傑作だが、エッチな描写が多いので18歳未満は扱いに気を付けるように。

眼鏡っ娘史にパラダイムシフトを起こし、不朽の名を刻んだ西川魯介『屈折リーベ』については、またの機会に改めて検討したい。

■書誌情報

単行本は古本でも手に入るが、電子書籍で広く行き渡るようになったことは眼鏡っ娘的にも喜ばしい。

Kindle版:西川魯介『SF/フェチ・スナッチャー』第1巻 (白泉社ジェッツコミックス、2000年)

Kindle版:西川魯介『SF/フェチ・スナッチャー』第 2巻 (白泉社ジェッツコミックス、2001年)

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