この眼鏡っ娘マンガがすごい!第39回:小山田いく「ドリーマーの季節=ショウの妖精=」

小山田いく「ドリーマーの季節=ショウの妖精=」

秋田書店『月刊少年チャンピオン』1994年2月号

前回に続いて小山田いく作品。後味が悪い作品ではあるが、眼鏡的にはかなりおもしろい。
主人公のショウは、中一のころから夢の中で理想の女の子とセックスをして夢精を繰り返していた。ヤリチンの友人は、そんな夢を見るのは童貞のせいだと考えて、ショウに現実の女の子を紹介する。ショウの初体験の相手は、眼鏡っ娘で、処女だった。いよいよセックスに突入というときのシーンが、すごい。

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眼鏡っ娘のことを美人じゃないと思っていたのはともかく、眼鏡をはずしたら美人になるんじゃないかと思って試しに外してみて、やっぱり「そんなに美人じゃないんだ」と確認してしまうなんてエピソードは、ちょっと見たことがない。眼鏡を外して美人になるわけがないのは、物理的な真実ではある。が、主人公が敢えてそれを確認しにいくというエピソードは、なかなか強烈だ。

039_02しかしショウくんは、このあと眼鏡っ娘とデートを繰り返して、当初は気づいていなかった眼鏡っ娘の魅力を次々と発見していく。眼鏡っ娘はその存在自体が尊いのであって、顔が美人かどうかは些細なことであることに、ようやくショウも気が付き始める。そうなんだぞ、眼鏡っ娘はやることの一つ一つがいちいちかわいいんだぞ。
が、残念ながらショウはまだ子供だった。眼鏡っ娘の本当の尊さについに辿り着くことなく、夢の中に登場する理想の女にこだわって、眼鏡っ娘と別れることとなる。すると、ヤリチンの友人が眼鏡っ娘と付き合い始める。彼は、外見ではわからない眼鏡っ娘の本当の魅力に気が付いていた。いっぽうのショウは、失って初めて眼鏡っ娘の本当の素晴らしさに気が付く。外見にこだわっていた自分の愚かさにようやく気が付く。が、時すでに遅し。幸せそうな眼鏡っ娘を見送ったショウは、大人の階段を登っていくのだった。

まあ、ショウはどうしようもないやつだが、最後に眼鏡っ娘が幸せそうに笑ってくれたのは大きな救いだった。

■書誌情報

単行本『むじな注意報』第5巻に収録。が、どうも5巻だけ単独で手に入れるのは容易ではなさそうだ。全5巻セットもプレミアがついていて、入手難度はちょっと高めかもしれない。

単行本全巻セット:小山田いく『むじな注意報!』全5巻(少年チャンピオン・コミックス)

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第38回:小山田いく「むじな注意報!」

小山田いく「むじな注意報!」

秋田書店『週刊少年チャンピオン』1996年37+38号~97年34号

038_01評価が難しい作品だということを、あらかじめ確認しておきたい。まず、代替の効かない優れた作品であることに間違いはない。特に主要登場人物のうち3人が魅力的な眼鏡っ娘であることは、極めて賞賛に値する。小野寺浩二や西川魯介ならともかく、一つの作品に複数の眼鏡っ娘を投入してくる作品は滅多にない。ましてや週刊少年誌掲載作品だ。さらに眼鏡っ娘ふたりがダブルヒロインとして主人公と三角関係になるところなど、類例は見当たらない。すばらしい。
しかしその一方で、3人の眼鏡っ娘のうち一人が眼鏡を外してかわいくなるなどという、例の愚かなアレをやっちまったのだった。ガッデム。この愚かな行為によってすべてが台無しになっているのか、それともやはり他に類を見ない優れた眼鏡っ娘マンガとして歴史に名を留めるべきなのか、その判断が非常に難しく、評価が定めがたいのだ。

そこで、まずはメガネを外して美人になってしまう内山礼子を詳しく見てみよう。注意したいのは、礼子の初登場が3話であって、当初からダブルヒロインの一人として予定されていたかどうかが怪しい点である。礼子は当初はギャグメーカーとして利用されており、主人公の顔にゲロをぶちまけたりクラスメイトに鼻水を噴射するなど、およそヒロインとはかけ離れたエピソードが連なっている。その礼子が美人になるのが、第12話「メガネをかけたシンデレラ」だ。お約束通り美人になった礼子は、礼子だと気づかれないまま、主人公のむじなやクラスメイトとデートする。遊んでいるときはとても楽しかったはずだが、家に帰るときはとても寂しい。それは、美人になった自分を、むじなやクラスメイトが自分だとわかってくれなかったからだ。少女マンガと同じく、やはり「アイデンティティ・クライシス」がテーマになっていると分かる。しかしさすが主人公、むじなだけは、それが礼子本人であることに気が付いていた。

038_02自分だと気が付いてくれた主人公むじなに、礼子は心から感謝する。「昨日の私…いくらかわいくても浮かれシンデレラ。ほんとの私は今の私」。そう、これは乙女チック少女マンガの起承転結構造だ。この12話を見る限り、本作は眼鏡っ娘を眼鏡のまま受け入れるという、眼鏡王道で間違いないのだ。

しかし惜しいことに、連載が進むうちに、眼鏡をとると美人になるエピソードが、アイデンティティとは無関係に安易に使用されるようになっていく。それに伴って、最初はギャグメーカーだった礼子がストーリーの中核に躍り出てくるようになる。これは私の憶測にすぎないが、12話に見られるような当初予定されていた乙女チック路線が、読者アンケート等を反映するうちに外見だけを重視する男目線の眼鏡描写へと傾いていったのではないだろうか。正直に言って、3巻までは楽しいのに、4巻以降は読みすすめるのが辛くて辛くて仕方がないのだ。
ということで、眼鏡至上主義的な私個人の観点では、前半は稀に見る傑作、後半は普通の少年マンガという評価になるだろう。

038_03他の眼鏡っ娘2人は、眼鏡を外して美人になるなどということはない。もしなっていたとしたら、八つ裂きにするところだった。永森樹美子は真面目で優しい優等生タイプの眼鏡っ娘で、むじなのことが密かに気になっているツンデレキャラ。第12話で礼子がかわいくなるエピソードでは、礼子を応援しているように見せながら、心の中ではツンデレっているところがとてもかわいい。当初はメインヒロイン扱いかと思われたが、途中からその座を礼子に奪われてしまう。とはいえ、最後まで重要な役割を果たし続ける。本音を言えば、彼女にするなら礼子よりも樹美子のほうが絶対にいいと思うんだがなあ。

038_043人目は、比較的登場シーンは少ないものの、存在感のあるエピソードで活躍を見せる遠藤聖代さん。とても図書委員らしい雰囲気を漂わせているが、エッチなおじさんにアッパーカットを喰らわせて撃退する意外性が魅力的な眼鏡っ娘だ。聖代さんが活躍する回は、独特の魅力に満ちている。

というわけで、たいへんもったいない面があるものの、他に代わりが効かない傑作であることはもちろん間違いがない。最後のシーンまで礼子ちゃんがきちんと眼鏡をかけていたことは、本作の良心だろう。

さてしかし、作者の小山田いくが眼鏡的にさらに素晴らしいのは、実は「むじな注意報」単行本第5巻に同時収録された読み切り作品に見える。それについては、また次回に。

■書誌情報

新刊では手に入らないようなので古本で入手するしかないのだが、驚くべきプレミアがついている。本作だけでなく、小山田いく作品全体がプレミア価格になっている。どういうことだ。

単行本セット:小山田いく『むじな注意報!』全5巻(少年チャンピオン・コミックス)

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