岡本美佐子「つむじまがり」
集英社『ぶ~け』1978年10月号
眼鏡が繋げた恋の物語。ヒーロー江崎くんの眼鏡フェチぶりに注目の作品だ。
眼鏡っ娘のちひろは高校2年生。中学生の時の失恋を引きずって、素直になることができない。人気者の江崎くんに対しても、当たりがキツくなってしまう。
ある日、ちひろと江崎くんが図書室で衝突していたところ、不意に外れて落ちた眼鏡を、通りがかった男子が踏みつけて壊してしまう。ここで江崎くんが見せた対応に注目していただきたい。
「めがねはおれが弁償するよ」から、間髪入れずに「放課後いっしょに買いに行こうぜ」のコンボ。相手に考慮させるヒマを与えずに、あっという間にデートに持ち込む、このテクニック。眼鏡を媒介にしたからこそ自然に成立している技術を、我々も積極的に見習っていきたい。
そして放課後めがねデート。
自分の思い通りの眼鏡をかけさせ続ける江崎くん。作品が発表されたのが1978年ということで、まだ「眼鏡フェチ」という言葉は存在しなかったが、彼はどこからどう見ても明らかに眼鏡フェチだ。こうして江崎くんは、自らの理想通りの眼鏡っ娘を作り上げることに成功する。
しかし。江崎くんに惚れていた非-眼鏡の女が、意地悪な邪魔に入る。意地悪女がちひろに「江崎くんは誰にでも優しい。好きじゃない女にも優しいんだ。勘違いするな」と横やりを入れたところ、中学生の頃のトラウマを刺激されたちひろは、眼鏡を受け取らずに逃げ帰ってしまう。翌日、ちひろは江崎くんが選んだのとは別の眼鏡をかけて登校する。
理想の眼鏡っ娘を失った江崎くんの抗議を見てほしい。「どうしたんだよそのめがねは」というセリフに、俺が選んだ眼鏡が一番似合うんだという自信と信念がみなぎっている。江崎くんが自分の選んだ眼鏡をちひろにかけさせようとしたとき、また非-眼鏡女が邪魔に入る。邪魔女は江崎くんの気を引こうとして、二人の間に割って入る。しかし江崎くんはブレない。非-眼鏡女を「あんたは向こうへ行っててくれ!」と追い返し、眼鏡っ娘が最も大事なんだという姿勢を明確にする。そして改めて自分が選んだ眼鏡をかけてもらうべく、告白モードへ。
自分が選んだ眼鏡をかけてもらうことが、江崎くんにとってのプロポーズなのだ。意地を張っていたちひろも、ようやく江崎くんの熱意を受け入れ、眼鏡をかける。
眼鏡のおかげで過去のトラウマを克服したちひろ。一人の男が眼鏡に込めた信念がトラウマを超えて恋を成就させるという、胸熱の恋愛物語である。
■書誌情報
本作は31頁の短編。単行本『流星あげる』収録。絶版になっており、数も出ておらず、そこそこ手に入りにくそう。古本屋で見つけたら100円で売っていると思うが…
単行本:岡本美佐子『流星あげる』集英社ぶ~けコミックス、1981年
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