この眼鏡っ娘マンガがすごい!第118回:峡塚のん「すきすき!ママレード」

峡塚のん「すきすき!ママレード」

講談社『なかよし増刊』1976年11月号

二人の男が眼鏡っ娘の魅力を自覚する物語である。美しい「眼鏡っ娘起承転結構造」になっているところも見所だ。
まず主人公のマルコだが、最初は化学のイブリン先生(眼鏡っ娘)のことが大嫌いだった。

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眼鏡っ娘イブリン先生は、髪の毛はボサボサだし、煙草も吸うし、フラスコで紅茶を煎れるし、変わり者のオールドミスとして知られていた。そんなイブリン先生のことが人一倍嫌いだったはずのマルコだが、偏見を取り払って実際に接してみると、本当は朗らかで陽気で、とても美しいことに気が付く。マルコは一人で自発的に眼鏡っ娘に目覚めたのだ。

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かわいいイブリン、ステキなイブリン、きれいなイブリン!と、もはやマルコには眼鏡っ娘のことしか見えない。が、それを主張しても、誰も合意してくれない。眼鏡っ娘の素晴らしさを頑張って主張しても世間に受け入れられなかった我々のかつての姿が重なって、涙が出る。

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そこでマルコは、イブリンが美しいことを万人に認めさせようと、美人コンテストで一位を取らせようとする。実はこれがマルコの最大の敗因となるのだが、それは最後に確認しよう。
さて、当のイブリンは、特に美人コンテストに興味もなく、最初は出るつもりなどなかった。しかし、ダグラス先生にバカにされて、気が変わる。

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そう、実はイブリンは密かにダグラスのことが好きだったのだ。だが、悲しいことにツンデレのイブリンは、ダグラスの前では素直になれない。売り言葉に買い言葉で、美人コンテストに出ることを宣言してしまう。そして実際に、眼鏡を外して美人になる。学校の誰もが、イブリンがきれいになったと認めるようになる。マルコは鼻高々だ。だが、しかし。

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イブリンは、みんなから「きれいになった」と言われても、ちっとも嬉しくなかった。ただ一人、ダグラスから「きれいだ」と言われたいのだ。イブリンは、眼鏡をかけて、決意する。美人コンテストには、眼鏡で出場する。

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「あたしはあたしでしかないんだもの」という自覚。眼鏡あってこその自分であることを自覚したイブリン。そんな眼鏡っ娘の姿を見て、このセリフが言えないようでは真の男ではない。ダグラスはイブリンの名を叫んで、告げる。「イブリンきれいだよ」。これだ。眼鏡であることを自覚した眼鏡っ娘にかける言葉は、これだ。いいぞ!同志メガネスキー!

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054_hyou「きみはメガネのままでいいんだ、メガネのままがいちばんさ!」と叫んだダグラスの胸に飛び込むイブリン。見事なハッピーエンドだ。
かわいそうなのは、自力で眼鏡っ娘の魅力に気が付いたのに、結果的にふられることになってしまったマルコである。が、振り返ってみれば、自業自得であることがわかる。眼鏡っ娘の魅力は眼鏡のまま伝えなければ何の意味もない。しかしマルコはその世界の真実に気が付かず、眼鏡を外してイブリンの魅力を伝えようとしてしまった。美人コンテストに臨む際、イブリンの眼鏡を外したマルコに、最初から勝ち目などなかったのだ。

■書誌情報

本作は32ページの短編。単行本『恋のしめきり5分前』所収。40年近く前の単行本だけど、そこそこ入手できる感じだ。

単行本:峡塚のん『恋のしめきり5分前』講談社、1977年

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第117回:TOBI『眼鏡な彼女』

TOBI『眼鏡な彼女』

ソフトバンク『FlexComixブラッド』2007年6月~08年1月

眼鏡っ娘が主人公の作品が8本収録されたオムニバス。複数の作者による眼鏡っ娘アンソロジーはそれまでにもいくつかあったが、一人の作者が眼鏡っ娘だけを描いた短編オムニバスというのは、とても珍しい。画期的じゃないだろうか。その素晴らしさは、表紙にわかりやすく表現されている。

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それぞれ個性のある眼鏡っ娘が8人大集合。この眼鏡っ娘だらけの表紙からだけでもいろいろな物語を想像できそうだ。

もちろん個々の作品も素晴らしく、眼鏡っ娘はとてもかわいい。
まず冒頭の作品「かけず嫌い」では、主人公の神谷くんが眼鏡を外そうと画策するが、眼鏡っ娘は何があっても絶対に眼鏡を外さない。

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すばらしい。
しかし眼鏡がキライだった神谷くんが、実は近眼だったことが発覚する。人生で初めて眼鏡をかけることになった神谷くん。その描写が、とても心地よい。

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真ん中のコマ、眼鏡のレンズ内だけピントが合っていて、外がボケている。そこから繋ぐ最後のコマの破壊力がすさまじい。ここで下から上目遣いに覗き込む眼鏡っ娘か!たまらんわ!
というわけで、神谷くんも少しずつ素直に眼鏡を受け入れていくのであった。

他の短編も素晴らしい眼鏡描写が多いのだが、特に2つのエピソードは紹介しておきたい。
まず、「伊達男作戦」は、眼鏡屋の店員さんに一目惚れした主人公のお話。なんとか眼鏡っ娘に近づこうとする彼は、眼鏡を作ることにしたのだった。

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が、残念なことに、彼は視力がべらぼうに良かったのだ! そこで一生懸命視力を下げようとする涙ぐましい努力を始めるが、最終的に「伊達眼鏡」に気が付く。彼は伊達眼鏡を作ることによって、みごと眼鏡っ娘と一歩近づくことに成功する。眼鏡界では「伊達眼鏡ありかなしか論争」が定期的に噴出するが、伊達眼鏡の意味と機能を考える上での基礎資料となる作品と言えよう。

次に「曇ぬくもり」の、眼鏡が曇る描写。眼鏡っ娘はあがり症で、すぐ顔が赤くなって、眼鏡が曇ってしまう。

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この眼鏡が曇るという描写が物語自体に効果的に組み込まれて、非常に印象的なエピソードとなっている。眼鏡っ娘のキャラクター性を表すのにこういう描写があるんだなと、とても感心した。

ということで、一冊で8人の眼鏡っ娘を堪能することができる、極めて濃度の高い作品集である。アイテムとしての眼鏡が果たす役割も、それぞれのストーリーごとに異なっており、読み応えがある。大満足の一冊だ。お約束で、読後に表紙をめくってみて、脱力。

■書誌情報

単行本全一冊。同作者『眼鏡とメイドの不文律』も眼鏡っ娘を主人公とした作品だが、『眼鏡なカノジョ』のスピンオフ作品も収録されている。

単行本:TOBI『眼鏡なカノジョ』Flex Comix、2008年
単行本:TOBI『眼鏡とメイドの不文律』Flex Comix、2008年

また、本作はアニメ化もされている。眼鏡っ娘がフィーチャーされた作品がアニメ化されたということで、メガネっ娘居酒屋「委員長」でも大騒ぎであった。

アニメDVD:『眼鏡なカノジョ』メディアファクトリー、2010年

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