この眼鏡っ娘マンガがすごい!第165回:さいとうちほ「少女革命ウテナ」

さいとうちほ/原作・ビーパパス「少女革命ウテナ」

小学館『ちゃお』1996年9月号~98年3月号

アンシーが目の前に現われたときは、強烈な衝撃でした。褐色の眼鏡っ娘! 確かに90年代前半には「ふしぎの海のナディア」等の影響で褐色ブームがあったのかもしれません。しかし褐色に眼鏡という組み合わせは、あまりのインパクトでありました。

この褐色の眼鏡っ娘アンシーが、本作のヒロインであります。ちなみに本作に限っては誰が「ヒロイン」で誰が「王子様」なのかについて極めて錯綜とした議論が巻き起こる可能性はあるでしょうが、さしあたってアンシーがヒロインということにさせていただきます。なんといっても、バラの花嫁なのですから。

本作では、バラの花嫁アンシー争奪をかけて、激しい争いが繰り広げられることになります。争いの中で、なんと、眼鏡っ娘の胸から剣が出てくるのです。うらやましい。私も眼鏡っ娘の胸から剣を取り出してみたいものです。

しかし、物語の黒幕はなんとアンシーの兄でありました。出てきた瞬間、こいつが悪い奴だということは、即座に分かります。誰でもすぐに分かります。というのは、アンシーの眼鏡を外すからであります。眼鏡を外す外道にいい奴など一人もいません。眼鏡を外すということは、相手の視力を奪うということであり、相手と世界の繋がりを断ち切ろうとすることです。眼鏡を外す奴は、相手を自分の思い通りにコントロールしたいというドス黒い欲望を持っているのです。

そんなわけで、眼鏡を外されたアンシーは、棺桶に封じられてしまいます。眼鏡は世界と繋がっていることの証しでしたから、眼鏡を失うことは封印の象徴なのです。

そこでアンシーを見て、アンシー大好きな西園寺が叫ぶのです。

そのとおりだ、ばかやろう! アンシーを返せ! アンシーの眼鏡を返せ! 頑張れ西園寺!
西園寺くんに対しては、物語冒頭でアンシーを叩いたりするDV野郎として極めて悪い印象を持っていたのですが、こやつ、本気でアンシーのことを好きなのであります。眼鏡っ娘好きに悪い奴はいません。西園寺くんの評価は、このエピソードで一気に回復したのでありました。

そしてなんだかんだあってウテナが黒幕を倒すと、そう、アンシーの眼鏡が復活するのであります! 眼鏡をかけてウテナを凝視するアンシー! アンシーが眼鏡をかけたのは、世界に舞い戻ったことの象徴であります。眼鏡をかけた視線の先にウテナがいるのは、主観的な認知と客観的な世界が繋がったことを表わしているわけです。素晴らしい流れであります。

さて、そんなアンシーがどうしてバラの花嫁をしているかなどの多くの謎は、実は作中では解決しません。秘密は眼鏡の中にしまってあるのかもしれません。

そして、そんなアンシーは14歳。眼鏡っ娘なのに勉強が苦手なのでした。
いろいろな意味で、既存の眼鏡っ娘観の枠に収まらない、新しい可能性を見せてくれたキャラクターでありました。

書誌情報

同名単行本全5冊。新装版では全6巻。電子書籍で読むこともできます。アニメ化もされており、各種コンテンツが充実しています。アニメのほうでご存じの方が多いかもしれません。
しかし、さいとうちほが連載を始めたときは、不安しかありませんでした。というのも、さいとうちほはそれまでに眼鏡作品を3作描いているのですが(「秘めごとの夏」「時計じかけの愛人」「影―オンブル」)、その3作すべてで眼鏡を外して美人にしてしまうという、極めて不都合な作風だったからです。本作も、眼鏡を外して云々という最悪なパターンにはまってしまうのではないかと我々が恐れをなすのも無理ない話というものです。
が、最終的にアンシーの眼鏡は失われてしまったものの、眼鏡の魅力を否定するような極悪な作品にはならなりませんでした。ほっと胸をなで下ろしたのです。

【単行本・Kindle版】さいとうちほ/原作・ビーパパス『少女革命ウテナ』1、小学館、1997年

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