あろひろし「若奥さまのア・ブ・ナ・イ趣味」
徳間書店『ヤングキャプテン』1988年1~3号
※以下、性的な話題を多く含むので、苦手な人は回避してください。
前回の「マッド彩子」に引き続き、狂科学者の眼鏡っ娘マンガだ。
眼鏡っ娘の美衣加は、人妻マッド・サイエンティスト。手乗りのブラックホールを開発したり、夫のクローンの煮付けを作ったり、出来立て弁当を届けるために空間転移装置を作ったりと、毎日忙しい。その中でも驚天動地の発明は、自分の体を上半身と下半身に分割してしまう装置だ。なぜこんな装置を発明したかというと、美衣加はアイデアが閃くとすべてを放り出して発明に没頭してしまうのだが、それがセックスをしている最中だったら、夫を生殺しで放置してしまうことになる。そこで、自分が発明に取り組んでいる最中にも夫がフィニッシュできるように、上半身と下半身を分離させたのだった。夫が下半身だけの美衣加とズコズコやるシーンもトホホだが、膣痙攣のエピソードはマヌケ極まって衝撃だ。
そんな美衣加が実は10歳だったことが第3話で明らかになる。美衣加の母もマッドサイエンティストで、なんと自分が開発した成長促進剤を実の娘で人体実験していたのだった。成長促進剤で大きくなった美衣加は、見た目は大人だが、実年齢は10歳であり、第3話で初潮を迎えることとなった。美衣加は初潮前にセックスしていたのだった。うーん、すごい。こんな話は他に見たことはない。青少年健全育成条例では、こういう例をどう判断するのだろうか??
単行本には「それ行け!奥秩父研究所」も収録されている。こちらのヒロイン移木杉代もマッド・サイエンティスト。狂科学者らしく世界征服を志し、シャレにならない発明で世界をあと一歩で破滅させるところまで追い込む。とんでもない非常識なキャラだけど、だがそこがいい。こんな突拍子もないキャラクターは、あろひろしにしか描けない。
実は、ありそうであまり実例がないのが、眼鏡っ娘のマッド・サイエンティストだ。おそらく、マッド・サイエンティストをきちんと描くこと自体がそうとう難しく、大方は、アイデアを思いついても描写できないまま断念せざるをえないのだと思われる。本作の眼鏡っ娘は、あろひろしの実力なくしては生まれえなかったと言えよう。
あろひろしと聞いてすぐに思い出してしまうのは、80年代中期のコミケカタログのサークルカットだ。現在のコミケカタログでは、サークルカットをまたいで一連の絵にすることは禁止されている。実際に同じサークルが2スペース並んでいる場合でも、サークルカットは別々に描かなくてはならない。ところがそのルールは80年代半ばには存在しておらず、あろひろしのサークル「スタヂオぱらのい屋」は6カット連続で、つまり1行まるまる一繋ぎのイラスト(例の自画像のワニだが)を描いていたりする。現在の常識からは想像もできないし、当時でも他に例はほとんどなく、独創性溢れる試みだっただろうと思う。(逆に言えば、現在のサークルカットで連続イラストが禁止されているのは、ひょっとしたら、あろひろしのせいかもしれない?)。
眼鏡に関していえば、『優&魅衣』も歴史に記憶されるべき作品だろう。主人公の優はメガネ君だが、眼鏡を外すと人格が一変する。「眼鏡の不連続性」を「人格の不連続性」とリンクさせたアイデアだ。優のお姉さんも普段は厳格な眼鏡っ娘だが、眼鏡を外すと人格が一変して性欲が暴走する。この眼鏡の「不連続性」は、眼鏡の魅力を解き明かす上で極めて重要な意義を持つ(バタイユ的な意味で)ので、様々な作品を通じておいおい考えていくことになるだろう。
ただ一つ残念なのは、中期の代表作「ふたば君チェンジ」の眼鏡っ娘、酒仙洞音霧ちゃんが眼鏡を外して美人になるどころか、それが「パターン」だと描写してしまったことだ。眼鏡を外して美人だなどと世界の摂理を裏切った時点で切腹ものだが、さらにそれを「パターン」だと表現してしまったのは、返す返すも残念だ。それが起承転結の「起承」にすぎない不良品であることは、我々が繰り返し主張してきたところである。これほど独創性に秀でたマンガ家あろひろしにして、眼鏡神話(眼鏡を外して美人になるというウソ)の呪縛に囚われているとは、作家を責めるよりは、眼鏡神話が人々の心の闇につけこむ汚さを肝に銘じるべきということだろう。
■書誌情報
「若奥さまのア・ブ・ナ・イ趣味」も「それ行け!奥秩父研究所」も同じ単行本に収録されている。青少年健全育成条例にも引っかからず、現在でも入手できる。(※追記)絶版マンガ図書館にも収録されている。会員登録すれば無料で読むことができる。
単行本:あろひろし『若奥さまのア・ブ・ナ・イ趣味』 (少年キャプテンコミックススペシャル、1990年)
絶版マンガ図書館:あろひろし『若奥さまのア・ブ・ナ・イ趣味』
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