峡塚のん「すきすき!ママレード」
講談社『なかよし増刊』1976年11月号
二人の男が眼鏡っ娘の魅力を自覚する物語である。美しい「眼鏡っ娘起承転結構造」になっているところも見所だ。
まず主人公のマルコだが、最初は化学のイブリン先生(眼鏡っ娘)のことが大嫌いだった。
眼鏡っ娘イブリン先生は、髪の毛はボサボサだし、煙草も吸うし、フラスコで紅茶を煎れるし、変わり者のオールドミスとして知られていた。そんなイブリン先生のことが人一倍嫌いだったはずのマルコだが、偏見を取り払って実際に接してみると、本当は朗らかで陽気で、とても美しいことに気が付く。マルコは一人で自発的に眼鏡っ娘に目覚めたのだ。
かわいいイブリン、ステキなイブリン、きれいなイブリン!と、もはやマルコには眼鏡っ娘のことしか見えない。が、それを主張しても、誰も合意してくれない。眼鏡っ娘の素晴らしさを頑張って主張しても世間に受け入れられなかった我々のかつての姿が重なって、涙が出る。
そこでマルコは、イブリンが美しいことを万人に認めさせようと、美人コンテストで一位を取らせようとする。実はこれがマルコの最大の敗因となるのだが、それは最後に確認しよう。
さて、当のイブリンは、特に美人コンテストに興味もなく、最初は出るつもりなどなかった。しかし、ダグラス先生にバカにされて、気が変わる。
そう、実はイブリンは密かにダグラスのことが好きだったのだ。だが、悲しいことにツンデレのイブリンは、ダグラスの前では素直になれない。売り言葉に買い言葉で、美人コンテストに出ることを宣言してしまう。そして実際に、眼鏡を外して美人になる。学校の誰もが、イブリンがきれいになったと認めるようになる。マルコは鼻高々だ。だが、しかし。
イブリンは、みんなから「きれいになった」と言われても、ちっとも嬉しくなかった。ただ一人、ダグラスから「きれいだ」と言われたいのだ。イブリンは、眼鏡をかけて、決意する。美人コンテストには、眼鏡で出場する。
「あたしはあたしでしかないんだもの」という自覚。眼鏡あってこその自分であることを自覚したイブリン。そんな眼鏡っ娘の姿を見て、このセリフが言えないようでは真の男ではない。ダグラスはイブリンの名を叫んで、告げる。「イブリンきれいだよ」。これだ。眼鏡であることを自覚した眼鏡っ娘にかける言葉は、これだ。いいぞ!同志メガネスキー!
「きみはメガネのままでいいんだ、メガネのままがいちばんさ!」と叫んだダグラスの胸に飛び込むイブリン。見事なハッピーエンドだ。
かわいそうなのは、自力で眼鏡っ娘の魅力に気が付いたのに、結果的にふられることになってしまったマルコである。が、振り返ってみれば、自業自得であることがわかる。眼鏡っ娘の魅力は眼鏡のまま伝えなければ何の意味もない。しかしマルコはその世界の真実に気が付かず、眼鏡を外してイブリンの魅力を伝えようとしてしまった。美人コンテストに臨む際、イブリンの眼鏡を外したマルコに、最初から勝ち目などなかったのだ。
■書誌情報
本作は32ページの短編。単行本『恋のしめきり5分前』所収。40年近く前の単行本だけど、そこそこ入手できる感じだ。
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