あずまきよひこ「あずまんが大王」
メディアワークス『コミック電撃大王』1999年2月号~02年5月号
第43回だから、「よみ」ね。
『To Heart』の委員長を描いているころから「すげえ眼鏡っ娘を描く人がいるな」とは思っていたけれど、本作の眼鏡描写はそれにも増して感動的だった。世間に広く眼鏡っ娘の魅力を広めたという点においても、非常に重要な作品だ。眼鏡描写が秀逸なのは、下の引用図に明らかだ(※レイアウト上の都合で、オリジナルとコマの配置を変えてあります)。
体育祭でメガネを借りるというネタなのだが、眼鏡描写上の要点が2つある。ひとつは、3コマ目の光学屈折描写。ふたつは、4コマ目で視力を奪われた眼鏡っ娘がヤブニラミになっているところである。
光学屈折描写の原理については、第40回「マッド彩子」で言及した。本作も、明らかな意図を以て光学屈折描写を行っている、数少ない作品の一つである。作者の眼鏡に対する深い愛情と確かな理解が伺える。
そしてヤブニラミに関しても、明らかな意図を以て描かれている。右に引用した作品に明らかなように、眼鏡ONのときには普通の眼をしていた眼鏡っ娘が、眼鏡OFFでは厳しい目つきになっている(もちろんその厳しい目つきは、体重が厳しいというオチとかかっていて、興趣倍増)。視力が低い人なら実感できることなのだが、目を細めるとモノがよく見える気がするので、なにかを凝視するとひどいヤブニラミになる。眼鏡を外して美人になるなどということは現実にはありえず、単に一人のヤブニラミが現れるに過ぎない。
ここまで確認して分かるように、本作は実は徹底的にリアルに描かれている。よく「あずまんが大王」のおもしろさはエキセントリックなキャラクターにあると言われる。その見解自体は間違っていない。しかしそのエキセントリックなキャラクターたちのひとつひとつの言葉や行動に説得力を持たせて、読者の共感の基盤になっているのは、眼鏡描写に端的に見られるような徹底的にリアルな描写だ。リアリティがないままに単に風変わりなキャラクターを描いても、読者の共感は得られない。共感の基盤であるリアリティに支えられて、はじめて我々は風変わりなキャラクターたちの言動をおもしろく感じることができるのだ。ここが、あずまきよひこ本人と、追随者たちとを決定的に分かつ重要なポイントである。
つまり、私がなにを言いたいかと言えば、眼鏡っ娘をしっかり描かないマンガに未来は決してないということを、声を大にして言いたい。眼鏡っ娘をしっかり描いて初めて、読者に共感される優れた作品となる。眼鏡を外して美人になるなどという、一切のリアリティを欠いた描写を行う愚かなマンガは、決して読者の支持を得ることはないだろう。
■書誌情報
人気のある作品なので、様々な形で読むことができる。
単行本セット:あずまきよひこ『あずまんが大王』全4巻完結(Dengeki comics EX)
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