この眼鏡っ娘マンガがすごい!第129回:吉沢やすみ「ど根性ガエル」

吉沢やすみ「ど根性ガエル」

集英社『週刊少年ジャンプ』1970年31号~76年24号

西川魯介師に教えてもらって「ど根性ガエル」を読み直してみたのだが、これほど眼鏡力に溢れるマンガだったとは、認識を刷新せざるを得なかった。

本作は、眼鏡的に特筆するべきことが2点ある。
まず一つ目は、主人公ひろしがいつもおでこにかけているサングラスに関するエピソードだ。単行本3巻の「サングラスをもどせの巻」で、ひろしのトレードマークであるサングラスが、幼なじみだった「眼鏡屋のくに子ちゃん」からもらったものであるということが明らかになる。作品中では、くに子ちゃんが「あたちだとおもって」と言いながら渡したサングラスを、ひろしが「だいじにちゅるよ」と受け取っている。これは島本和彦「炎の転校生」で、中性子が自分の眼鏡を滝沢に渡すエピソードとそっくり(本コラム第36回を参照)だが、はたして島本和彦のオマージュかどうかはわからない。

そしてこの伏線が回収されるのが、なんと中間点を過ぎた単行本15巻の「サングラスの君の巻」だ。ある日、作品の舞台である練馬区石神井に、大きな眼鏡屋さんができる。これが、サングラスをくれた幼なじみのくに子ちゃんの店だったのだ。

くに子ちゃんと再会して大喜びするひろし。ところが驚くべきことに、くに子ちゃんからサングラスをもらっていたのはひろしだけではなかったのだ。なんと、くに子ちゃんは、気に入った男子に手当たり次第にサングラスをばらまいていた! 「まぁまぁサングラスどうぞ」状態である。くに子ちゃんが眼鏡っ娘でなかったのが惜しまれるが、40年以上前だから仕方ないか。

特筆すべき2つ目のエピソードは、北大路麗子ちゃんという眼鏡っ娘だ。


麗子ちゃんの初登場は物語終盤の単行本23巻なのだが、登場したとたんに、メインヒロインの京子ちゃんを喰ってしまった。これは私の主観ではない。作中で、メインヒロイン京子を差し置いて、麗子ちゃんはミス南が丘中に選ばれているのだ。主人公ひろしも麗子ちゃんに投票している。眼鏡っ娘が最も美しい女性ということが、作中でしっかり主張されているのである。
もちろん外見だけでなく、性格も京子ちゃんより素晴らしい。なにより、麗子ちゃんの服にも平面ガエルのビッキーちゃんがくっついており、作中のキーパーソンとして扱われていることが極めて重要だ。ピョン吉は後にビッキーちゃんと結ばれて、たくさんの子供に恵まれることとなる。1970年代の少年マンガで眼鏡っ娘がこれほど前面に打ち出されることは例外だと言ってよい。手塚治虫は、吉沢やすみの結婚式で「平面ガエル」というキャラクターを考案したことを褒めたらしいが、本来なら手塚自身が前面に打ち出すことのなかった眼鏡っ娘を吉沢やすみがしっかりフィーチャーしたことに感心するべきだった。
残念ながら麗子ちゃんはアニメ版には新旧どちらにも登場しない。本作に眼鏡っ娘推しという印象がないのは、アニメ版の印象が強いせいだろう。しかし原作マンガに限って言えば、1970年代には考えられないほどの眼鏡推しだ。この原作の眼鏡スピリッツを保ったままアニメ化されていたら、眼鏡萌えの夜明けはもう少し早まっていたかもしれない。

書誌情報

オリジナルのジャンプコミックスは全27巻。麗子ちゃんが出てくるのは23巻~27巻。他に文庫版全5巻も出ているが、麗子ちゃんが登場するかどうかは未確認。
ほか、各種電子書籍で読むことができる。単行本には比較的プレミアが付いているので、23巻~27巻で麗子ちゃんを確認するだけなら電子書籍の方が手軽か。

単行本セット:吉沢やすみ『ど根性ガエル』集英社1~27巻
Kindle版:吉沢やすみ『ど根性ガエル:第23巻 ビッキーちゃん登場の巻』

 

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