この眼鏡っ娘マンガがすごい!第23回:米村孝一郎「POSSESSION TRACER」

米村孝一郎「POSSESSION TRACER」

富士見書房『月刊ドラゴンマガジン』1990年12月号~92年5月号

023_01オタク界で眼鏡っ娘萌えが一般化し始めたのは、コミケカタログのサークルカット全調査に基づくと、1995年のことだ。主な要因は2つ考えられて、一つはPlay Station等コンシューマ機のスペック上昇によって眼鏡描写が可能な解像度が実現し、ギャルゲーの中に必ず眼鏡キャラが登場し始めたこと。もう一つはCLAMPが少女マンガの眼鏡センスをオタク界にもたらしたことだった。その事情については別の機会に述べるとして、問題はその前の「暗黒時代」だ。

1980年代、一般作に『Dr.スランプ』という巨大な作品はあったものの、オタク界で眼鏡は非常に不遇な状態にあった。やはり高橋留美子作品に眼鏡っ娘がいなかったことが痛かった。さらにはサンライズアニメや麻宮騎亜作品にも眼鏡っ娘が登場せず、セーラームーンや格闘ゲーでも眼鏡はほぼ無視された。

そんな中、ひそかにエロマンガの世界で森山塔、ゲームの世界でGAINAXが眼鏡萌えの基礎を作り、その芽は『ホットミルク』誌で大きく花開こうとしていたのだが、90年代オタク界隈に眼鏡が前面に出てくるに当たって、本作のビジュアルイメージが果たしたブーストの役割は相当に大きいと思う。

023_02舞台は殺伐とした近未来。主人公の眼鏡っ娘=久音ひづかは、憑依補促能力者として心霊捜査課で活躍する警官。性格に一癖ある同僚たちと警察内部のセクト争いに辟易しつつも、惚れた男のために体を張って事件に立ち向かう。まあ、ぶっちゃけて言えば、この時点では大友克洋から士郎正宗の流れの中に位置づく作品のように見えていた。が、一つだけ完全な違いがあった。ヒロインが眼鏡っ娘であるという一点において、本作は特別だった。こんなカッコいい眼鏡っ娘は、見たことがなかった。ビジュアルはもちろんだが、活動的で前向きで、それでいてお茶目で人間味あふれる、キャラクターとして魅力的な眼鏡っ娘。伊達メガネなところはとても残念ではあるけれど、90年代前半のメガネ停滞感が、本作の存在によって救われているのは間違いない。眼鏡ルネッサンスまで、もう一息我慢の時期である。

同時期、90年代前半に『ホットミルク』の果たした役割については、改めて、るりあ046「ファントムシューター・イオ」や田沼雄一郎「プリンセス・オブ・ダークネス」などを題材に語りたいね。

■書誌情報

単行本:米村孝一郎『Possession Tracer』(富士見ファンタジアコミックス、1992年)

■広告■


■広告■