松乃美佳「ビターな恋を攻略せよ」
集英社『りぼん大増刊号』2003年春
眼鏡で「委員長」というと、一般的には保科智子のように男性向メディアで人気が出たキャラクターを思い浮かべるかもしれない。しかし実は少女マンガにも眼鏡で委員長の魅力的なキャラクターがたくさん主人公として登場することは、もっと広く認知されていいように思う。本作も、眼鏡で委員長でツンデレなヒロインが健気に頑張る話だ。
ヒロインの長岡手毬は、眼鏡っ娘委員長13歳。抜群の学力で一目を置かれている存在だが、密かにサッカー部の矢田部くんに恋をしていた。いつもグラウンド脇で読書するふりをしながら谷田部くんを応援していたのだった。
しかし手毬ちゃんは不器用で、好意を素直に伝えることができない。それどころか矢田部君が近づくとパニックに陥って逆に悪態をついてしまう始末。素直になれない手毬ちゃんは、谷田部くんのいつも素直なところに惹かれていたのだった。そんな手毬ちゃんを見かねた親友が、おせっかいを焼いて、なんとか手毬ちゃんを素直にさせようとする。しかし、ようやくうまくいったと思ったところで、やはり素直になれない手毬ちゃん。だがここは谷田部くんが、さすがに少女マンガのヒーロー。しっかり男を見せる。
委員長の視線に、谷田部くんはしっかり気が付いていた。素直に言葉を出せない手毬ちゃんの気持ちも、レンズを通した視線によってしっかりと伝わっていたのだ。おめでとうおめでとう!
本コラムで何度も指摘してきたが、これが眼鏡の力だ。眼鏡とは「見る意志」を象徴している。そして物語の中では、眼鏡は「読者の視線をコントロールするアイテム」として機能する。上に引用した絵では小さくてわかりにくいが、樹の傍に座って矢田部君を見ている委員長の顔に眼は描かれていない。眼鏡だけが描かれている。手毬ちゃんの「視線」は、眼鏡によって可視化されている。そして視線が眼鏡によって可視化されることにより、読者のほうも手毬ちゃんの視線をしっかり認識することができる。谷田部君の「視線が俺のはげみになっていた」というセリフは、こうした積み重ねがあって、初めて説得力を持つのだ。
口では嫌いと言っても、眼鏡は嘘をつけない。レンズを通した視線は、いつも真実を伝えている。眼鏡委員長の魅力は、そんなところにもある。
■書誌情報
本作は42頁の中編。単行本『あいレベル』に収録。新刊では手に入らないようだが、単行本が大量に出回ったので、古書で比較的容易に手に入る。
単行本:松乃美佳『あいレベル』(りぼんマスコットコミックス、2003年)
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