この眼鏡っ娘マンガがすごい!第89回:藤井明美「やさしい悪魔」

藤井明美「やさしい悪魔」

集英社『別冊マーガレット』1996年11月号~97年5月号

9年ぶりにイケメンになって帰ってきた幼馴染がメガネスキーだったという話。
ヒロインの十子(とうこ)は、女子高生眼鏡っ娘。ドイツに行っていた幼馴染のワタルが9年ぶりに帰ってきた。幼いころはチビで泣き虫だったワタルが、高身長のイケメンになっていた。そんなワタルが、なにかにつけ十子にちょっかいをかけてくる。たとえば、こんな感じ。

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自分の容姿に自信のない十子のほうは、ワタルの言動を嫌がらせのように感じてしまう。が、ワタルにしてみれば、心から出た素直な発言に過ぎない。ワタルは単にメガネスキーで、十子に眼鏡をかけ続けてほしいだけなのだ。何の裏も悪意もない。しかし十子はその事実に気が付かない。このすれ違いのモヤモヤが物語全編を貫いている。そう、これはメガネスキーの真っ直ぐな好意が実は眼鏡っ娘にはなかなか届かないということを描き切った物語なのだ。
なんやかんやで、なんとかワタルと十子がいい感じになり始めた時、恋のライバル、エリカが登場する。このライバルが、十子にやたら厳しい。まず初対面が酷い。

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ひでぇ言われようだ。小学生ならともかく、高校生にもなって「メガネザル」と言われてしまうとは。この十子の表情、本当にショックだったんだね。
しかし本当に素晴らしいのは、これを受けたワタルの発言だ。

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そう、論理的に言えば、メガネザルが眼鏡をとったら、ただのサルだ。論理的真実を言っているだけのワタルには、悪気はない。十子にずっと眼鏡をかけていてほしいから言っただけだ。が、ショックを受けた十子のほうには、ワタルの真意がわからない。エリカに引っ掻き回された十子は、コンプレックスをこじらせていく。眼鏡っ娘はメガネであるというだけで十分に魅力的だということに、十子自身はなかなか気が付かないのだ。メガネスキーと眼鏡っ娘の間には、いかに障害が多いことか。
が、ワタルは男を見せた。メガネスキーの誠意は、最後には眼鏡っ娘に届く。すべてのメガネスキーの誠意は、きっと眼鏡っ娘に届く。そんな勇気をくれる物語だ。

■書誌情報

単行本全1巻。人気があって大量に出回ったので、古書で容易に手に入れることができる。

単行本:藤井明美『やさしい悪魔』(マーガレットコミックス、1997年)

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