この眼鏡っ娘マンガがすごい!第117回:TOBI『眼鏡な彼女』

TOBI『眼鏡な彼女』

ソフトバンク『FlexComixブラッド』2007年6月~08年1月

眼鏡っ娘が主人公の作品が8本収録されたオムニバス。複数の作者による眼鏡っ娘アンソロジーはそれまでにもいくつかあったが、一人の作者が眼鏡っ娘だけを描いた短編オムニバスというのは、とても珍しい。画期的じゃないだろうか。その素晴らしさは、表紙にわかりやすく表現されている。

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それぞれ個性のある眼鏡っ娘が8人大集合。この眼鏡っ娘だらけの表紙からだけでもいろいろな物語を想像できそうだ。

もちろん個々の作品も素晴らしく、眼鏡っ娘はとてもかわいい。
まず冒頭の作品「かけず嫌い」では、主人公の神谷くんが眼鏡を外そうと画策するが、眼鏡っ娘は何があっても絶対に眼鏡を外さない。

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すばらしい。
しかし眼鏡がキライだった神谷くんが、実は近眼だったことが発覚する。人生で初めて眼鏡をかけることになった神谷くん。その描写が、とても心地よい。

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真ん中のコマ、眼鏡のレンズ内だけピントが合っていて、外がボケている。そこから繋ぐ最後のコマの破壊力がすさまじい。ここで下から上目遣いに覗き込む眼鏡っ娘か!たまらんわ!
というわけで、神谷くんも少しずつ素直に眼鏡を受け入れていくのであった。

他の短編も素晴らしい眼鏡描写が多いのだが、特に2つのエピソードは紹介しておきたい。
まず、「伊達男作戦」は、眼鏡屋の店員さんに一目惚れした主人公のお話。なんとか眼鏡っ娘に近づこうとする彼は、眼鏡を作ることにしたのだった。

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が、残念なことに、彼は視力がべらぼうに良かったのだ! そこで一生懸命視力を下げようとする涙ぐましい努力を始めるが、最終的に「伊達眼鏡」に気が付く。彼は伊達眼鏡を作ることによって、みごと眼鏡っ娘と一歩近づくことに成功する。眼鏡界では「伊達眼鏡ありかなしか論争」が定期的に噴出するが、伊達眼鏡の意味と機能を考える上での基礎資料となる作品と言えよう。

次に「曇ぬくもり」の、眼鏡が曇る描写。眼鏡っ娘はあがり症で、すぐ顔が赤くなって、眼鏡が曇ってしまう。

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この眼鏡が曇るという描写が物語自体に効果的に組み込まれて、非常に印象的なエピソードとなっている。眼鏡っ娘のキャラクター性を表すのにこういう描写があるんだなと、とても感心した。

ということで、一冊で8人の眼鏡っ娘を堪能することができる、極めて濃度の高い作品集である。アイテムとしての眼鏡が果たす役割も、それぞれのストーリーごとに異なっており、読み応えがある。大満足の一冊だ。お約束で、読後に表紙をめくってみて、脱力。

■書誌情報

単行本全一冊。同作者『眼鏡とメイドの不文律』も眼鏡っ娘を主人公とした作品だが、『眼鏡なカノジョ』のスピンオフ作品も収録されている。

単行本:TOBI『眼鏡なカノジョ』Flex Comix、2008年
単行本:TOBI『眼鏡とメイドの不文律』Flex Comix、2008年

また、本作はアニメ化もされている。眼鏡っ娘がフィーチャーされた作品がアニメ化されたということで、メガネっ娘居酒屋「委員長」でも大騒ぎであった。

アニメDVD:『眼鏡なカノジョ』メディアファクトリー、2010年

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第79回:須田さぎり「メガギフト」

須田さぎり「メガギフト」

メディアワークス『電撃帝王』2004年Vol.1~3
エンターブレイン『comic B’s-LOG』2007年9~10号

眼鏡で世界を救うために活動する男、目々澤(めめさわ)。目々澤は、日々路上で少女たちに眼鏡をかけさせている。そんな眼鏡にすべてを賭ける男が、理想の眼鏡素体と出会うところから物語が始まる。その理想素体少女に眼鏡をかけさせることができれば、目々澤の野望が達成できるのだ。

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理想素体少女の姉ミツルも、ひそかに眼鏡活動を続けていた。目々澤とミツルは「全人類に眼鏡を装着させる」という同じ理想を抱いていた。だがしかし、二人は眼鏡観が異なっていた。ミツルは、ズレ眼鏡が許せなかったのだ。眼鏡のジャスト・オンを断固主張するミツルに、目々澤が立ち向かう。

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目々澤は叫ぶ。「メガネの可能性は我々が封じてしまってよいものではない。メガネはもっと自由であるべきだ!!メガネをびくびるなっっ!!!!」。目々澤の眼鏡オーラに圧倒されるミツル。理想の眼鏡素体少女が、目々澤に圧倒的な眼鏡力を与えたのだ。戦え目々澤!世界に平和が訪れるまで、少女たちに眼鏡をかけてかけてかけまくるのだ!

この目々澤の「メガネはもっと自由であるべきだ!!」というセリフ、読んだ当時は実はあまりピンと来ていなかったけど、10年経ってようやくその味わいが分かってきた気がする。私もかつては原理主義的に「眼鏡、かくあるべし!」と信じていたけれど、それは眼鏡が秘めたポテンシャルを小さく見積もることでもあった。単行本の後書きで著者も触れているけれど、この10年で眼鏡をとりまく環境は大きく変化した。20世紀からは想像できなかった世界が、いま、眼前に広がっている。私が思っていた以上に眼鏡のポテンシャルが凄まじかったということだ。この先も、きっとそうだろう。我々自身の思い込みだけで眼鏡の可能性を閉じ込めてはいけない。その思いが目々澤の言う「メガネはもっと自由であるべきだ!!」という言葉に込められている。

というわけで、目々澤の活躍は続く。

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うむ。素晴らしい。

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うむ。素晴らしい。
しかし理想の眼鏡素体少女に目々澤が告白されたときのエピソードには、ひっくり返った。本当に眼鏡かけてない女は眼中にないのな。目々澤には幸せになってもらいたいと、心の底から思う。

■書誌情報

079_05同名単行本に全話所収。男性向媒体の『電撃帝王』で連載が始まって、女性向媒体の『comic B’s-LOG』で連載終了するという他にあまりない掲載形態だが、媒体が変わっても目々澤の活躍ぶりは一緒。
著者は強烈なメガネ君マンガも描いている。タイトルが「ひざまずいてメガネをかけろ」だからなあ。初めて見た時は本当にびっくりした。

単行本:須田さぎり『メガギフト』(B’s LOG Comics、2007年)

以下はメガネくんマンガ。
単行本:須田さぎり「ひざまずいてメガネをかけろ」(B’s-LOG COMICS、2006年)
単行本:須田さぎり「きみのくちでメガネをたたえよ」(B’s LOG Comics、2008年)

御本人が凛々しい眼鏡美人さんで、お話しするときはいつも舞い上がっていたのだった。

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第49回:雁須磨子「いばら・ら・ららばい」

雁須磨子「いばら・ら・ららばい」

講談社『One more kiss』2007年3月号~09年7月号

049_02茨田あいは、眼鏡っ娘24歳フリーター。とても美人で、スタイルもいいのに、要領よく世の中を渡っていけない。というのも、他人とコミュニケーションをとるのが苦手だからだ。他人の何気ない一言で傷ついて、ふつうにしていても他人の心を傷つけてしまう。そして自分が傷つくことよりも、他人を傷つけることのほうに心が痛む。そしてさらにコミュニケーションが苦手になっていく。そんな不器用な茨田さんが、新しいバイトの職場で、同じように生き辛さを抱えた人たちと一緒に、ゆっくり心を繋げていくお話し。

世間では「絆」なんてスローガンがもてはやされて、人間関係をハリウッド映画に登場する家族のように人工的に構築しようとしている勢力もあるけれど。まあ、たまにはそういうのもいいかもしれんけど。でも、人と人との繋がり方って、それだけじゃないよなあと。声の大きい体育会系が「絆」なんて言葉を元気に前面に打ち出せば打ち出すほど、隅っこで縮こまるしかないような人間だって、世の中にはいるんだよ、と。そういう生き辛さを抱えた面倒くさい人たちが、それでも自分の足で立っていられるのは、取るに足らない具体的なコミュニケーションを少しずつ積み重ねるなかで、「伝わった」という実感をほんの少しだけでも確認できるから。本作は、そんな細かなコミュニケーションの描写の一つ一つに、ずしんと説得力がある。

049_03本作は、大きな事件も起こらず、ドラマチッックな展開とも無縁で、些細なコミュニケーションが成立したりしなかったりする中で、生き辛い人がそれでもよちよち生きていく姿を描いている。それゆえにか、読んだ後、なんだかホッとする。たぶん、自分自身が抱える生き辛さも、ちょびっとだけ減ったような気がするからなんだろう。

本作の眼鏡っ娘・茨田さんのキャラクターは、造形も性格も、実はとてもユニークだ。真っ黒でボリュームのある長い髪の毛、太めの眉毛、存在感のある黒縁セルフレーム。シルエットだけで茨田さんだと分かる。特に素晴らしいのは、眼鏡を外して美人などという愚かな描写が皆無なところだ。眼鏡っ娘がメガネのまま美人として認識される。この当然と言えば当然の描写が実はできない作家が多いのだが、さすが雁須磨子の描写力は安心だ。
性格は、まあ、面倒くさい。だが、それがいい。茨田さんが幸せになってくれて、心の底から良かったと思える。

049_04雁須磨子は、そこそこ眼鏡っ娘を描いている。主な作品についてはしかるべき機会に改めてご紹介できればと思うので、ここではひとつだけ。右に引用した「保健室のせんせい」は16頁の小品だが、他の作家には出せない独特の眼鏡感が出ている佳作だ。中学校で養護教諭を務めている眼鏡先生の日常の一コマを描いた作品で、実に味わい深い。保健の先生ならではの「業」と「エロス」をコンパクトに描き切っていて、しかも眼鏡感がすごい。眼鏡あるべくして眼鏡という空気の作品に仕上がっている。こういう作品が描ける作家は、他には思いつかない。

■書誌情報

049_015年前の作品だけど、もう新刊では扱ってないのかな? いまのうちなら古書で容易に手に入れることができる。

単行本:雁須磨子『いばら・ら・ららばい』(KCデラックスKiss、2009年)

「保健室のせんせい」は単行本『あたたかい肩』に所収。電子書籍で読むことができる。単行本出版は2010年だけど、作品初出は2002年。

Kindle版:雁須磨子『あたたかい肩(ビームコミックス、2010年)

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第20回:小野寺浩二「キミとボクとのインフィニティ」

小野寺浩二「キミとボクとのインフィニティ」

竹書房『まんがライフMOMO』連載

まあ、いまさら私が語るまでもないのだが、眼鏡っ娘マンガ界四天王の一人、小野寺浩二のものすごい眼鏡っ娘作品である。
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とりあえず小野寺浩二初心者に何かを薦めるとしたら、本作からがいいような気がする。シャレにならないキチガイどもが大活躍している他の作品から読ませると、ドン引きされるならまだマシで、場合によってはブロックされかねない恐れがある。本作は良質ラブコメ成分が含まれていて、まだ入りやすいんじゃないだろうか。

とはいえ、もちろん手を抜いているわけではなく、良質なラブコメテイストを保ちながら、ものすごい濃度の眼鏡だ。全編が高密度の眼鏡エピソードで充満されているだけでなく、眼鏡のあげかた講座など実践的に役に立つ知識・技能も盛りだくさんで、本作を知らずに眼鏡萌えを僭称することなど許されないという気持ちになってくる。

020_03その中でも特に最も私の心に響いたのは、finalエピソードだ。なぜなら、メガネスキーにとって最も恐ろしい実存的問題に、真正面からぶち当たっていったからだ。
我々メガネスキーは、眼鏡っ娘が好きだ。その心に嘘や偽りはない。しかし眼鏡っ娘が好きだという思いが純粋であれば純粋であるほど、一つの矛盾に悩むことになる。「めがねならだれでもいい」のではないか? 一人の眼鏡っ娘を愛するというとき、相手の人格を尊重するのではなく、眼鏡だから好きなのではないかという疑問。その疑問に体当たりで勝負した西川魯介は『屈折リーベ』という不朽の名作を残したわけだが、本作もその最大のアポリアに逃げることなく取り組み、スペシャルな答えを見せつけてくれた。眼鏡に真剣に取り組んだ作者だからこそ、他の誰にも真似できない答えを見いだせる。生半可な気持ちでは絶対に出てこない解答は、ぜひ自分の目で確かめてほしい。私は感動で打ち震えた。

■書誌情報

020_01現在、電子書籍で読むことができる。

Kindle版:小野寺浩二『キミとボクとのインフィニティ』(バンブーコミックス全1巻、2009年)

本作のノリが大丈夫だったら、ぜひ続いて聖典「妄想戦士ヤマモト」に進んで、小野寺ワールドにのめりこんでいきたい。

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