この眼鏡っ娘マンガがすごい!第135回:ゆうきまさみ「じゃじゃ馬グルーミン☆UP!」

ゆうきまさみ「じゃじゃ馬グルーミン☆UP!」

小学館『週刊少年サンデー』1994年44号~2000年42号

本作は「眼鏡っ娘マンガ」である。特に、長い時間をたっぷり使って一人の眼鏡っ娘の誕生を丁寧に描いたという点において、他に類例作は見当たらない。希有な作品である。

眼鏡っ娘になるのは、主人公が居候する度会家四姉妹のうち、三女の「たづな」である。物語中盤あたりからヤブニラミの描写など、明らかに視力が落ちたような描写が増えるのだが、なかなか眼鏡をかけてくれない。実際に眼鏡をかけてくれるのは単行本全26巻のうち、ようやく25巻目になってからである。焦らしすぎ!

135_01

そして主人公とたづなは眼鏡屋へと行くことになるのだが、この眼鏡屋の描写が凄い。次に引用する見開きの右下のコマに注目していただきたい。

135_02

眼鏡屋の息子はそうとうのド近眼らしく、光学屈折で顔の輪郭がズレているのは、安定のゆうきまさみクオリティである。が、この眼鏡屋の息子、顔の輪郭だけでなく、両方の目の「目蓋のライン」も光学屈折でズレている。邪推することを許していただければ、この目蓋の光学屈折を描きたくて、こういうキャラデザと眼鏡の形を選んだのではないか。そう考えたくなるほど、このコマの描写は「特別」である。
また、この眼鏡屋の息子のキャラクターの味が良い。「メガネつくりにきたんだけど」と言われて、「やっとその気になったのか。」というリアクション。このリアクションの意味は、次の見開きで描かれた彼の行動で明らかになる。

135_03

惚れた女にこんな眼鏡をかけさせたいという根源的な欲望を、こんなにスマートに実現するとは! 彼がさりげなく眼鏡を出したかのように見えるが、もちろん違う。日頃から「こんな眼鏡が似合うに違いない」という妄想を逞しく成長させていて、こんな絶好の機会が来ることを待ち望んでいたに違いない。「やっとその気になったのか」と言ったとき、彼の心の中ではガッツポーズだ。実際、彼がオススメする眼鏡は、一発でたづなを納得させる。常に「この女にはこの眼鏡をかけさせよう」と繰り返してきたイメージトレーニングが、いま実ったのだ! やったな中路くん!
最終話によれば、たづなは30歳を超えても独身のままのようだ。しかし私が想像するに、たづなが納得する眼鏡を提供できるのは、おそらく彼だけだ。最終話でもたづなが眼鏡をかけていたということは、彼との絆は眼鏡で繋がり続けているということだと思う。そう思わせていただく。

書誌情報

競馬マンガとして非常におもしろいので、眼鏡っ娘が誕生する過程を味わいつつ、競馬マンガとして楽しむといいと思う。電子書籍でも読むことができる。単行本全26巻。
ちなみに「四姉妹」といったとき、どんな作品を思い浮かべるかで人柄が分かりそうだ。「細雪」か「若草物語」か「じゃじゃ馬グルーミン☆UP!」か「らき☆すた」か「痕」か…

Kindle版:ゆうきまさみ『じゃじゃ馬グルーミン☆UP!』
単行本:ゆうきまさみ『じゃじゃ馬グルーミン☆UP!』全26巻セット
文庫本:ゆうきまさみ『じゃじゃ馬グルーミン☆UP!』全14巻セット

 

■広告■


■広告■