この眼鏡っ娘マンガがすごい!第137回:伊藤かこ「リップマジックへ誘って」

伊藤かこ「リップマジックへ誘って」

実業之日本社『おまじないコミック』1987年10月号

美しい「眼鏡っ娘起承転結構造」を鑑賞することができる佳作である。

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起:三橋杏子は三つ編みの眼鏡っ娘。勉強が良くできる一方、自分のことをかわいくないと思い込んでいる。その一方で、女性を外見で判断するような低脳男は「こっちからお断り!」で、「知的な男性と知的な恋をする」と夢見ている。現実を知らず、夢を夢見ている状態と言える。現実は「眼鏡をかけているからこそ美しい」のだが、それを認識できていない残念な状態だ。

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承:そこへ悪い男登場。杏子の眼鏡を外し、三つ編みをほどいて、化粧を施し、ファッション誌のモデルに抜擢する。チヤホヤされた杏子はたちまち舞い上がり、「自分を見抜いてくれた」と勘違いして悪い男に惚れてしまう。眼鏡をほったらかしにして、熱心に化粧を始める。だがもちろん、眼鏡っ娘から眼鏡を外すような男は、悪い奴に決まっているのだった。先が見えない不幸ロードまっしぐらだ。

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転:杏子の幼馴染みでヘアメイク担当の慎ちゃん(メガネスキーかつミツアミスキー)は、物事の本質を見抜いていた。眼鏡っ娘に心からの忠告をするが、眼鏡を外して心まで近眼になっている杏子には世界の真実が見えない。慎ちゃんの忠告を無視して悪い男にすがりつくが、最後には騙されていたことを知り、酷く心を傷つけられる。杏子は、ようやく自分が間違っていたことに気がつく。

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054_hyou結:杏子は再び眼鏡をかける。しかしそれは単に「起」の状態に戻ったことを意味しない。眼鏡をかけることで、杏子には世界の姿がよく見えるようになっている。現実をしっかり認識し、自分のことも深いレベルで理解し直している。杏子ははっきりと「眼鏡こそが自分の個性であり魅力である」と認識している。眼鏡をかけるとは、世界と自分を正しく認識するということだ。そして隣には慎ちゃん。眼鏡を外さないこの男は、きっと杏子を幸せにしてくれるだろう。

書誌情報

本編は60頁の短編。単行本『あなたからおしえて』所収。作者の伊藤かこは、他にも良い眼鏡っ娘マンガをいくつか描いている。作者似顔絵の眼鏡もかわいい。

単行本:伊藤かこ『あなたから教えて』実業之日本社、1990年

 

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