聖千秋「VIP & Celeb」
集英社『コーラス』2002年7月号~12月号
元気で活発で自発的に行動する眼鏡っ娘がヒロイン。テンプレ的なキャラ属性表現がまったくない一方で、眼鏡というアイテムの思想的意味を存分に展開している、見所の多い作品である。
ヒロインの梨沙は、交差点でぶつかった男子に一目惚れする。
落ちた眼鏡を自分の携帯電話よりも先に拾ってくれたのが、恋のきっかけだった。行動的な梨沙は、その男子にアタックするため、同じ高校に進学する。
しかし高校に進学してから待っていたのは、厳しい格差社会だった。憧れの先輩は雲の上の「VIP」メンバーで、一般生徒が声をかけていいような存在ではなかった。近づこうとすると、取り巻きの女子生徒から攻撃を喰らってしまう。なんとか動物つながりで話ができるようになっても、「メガネザル」に似ていると言われる始末。前途多難である。
しかしこのメガネザルが二人を繋げる大きな鍵になるのだから、メガネは侮れない。
梨沙は、なんとかVIPの先輩に近づこうと、オシャレをして美しくなる努力を始める。その甲斐があって、だんだんメンバーの一員として認められ始める。
ここで眼鏡を外してしまって表面上は美しくなったように見えて、ガッカリするかもしれない。しかし私には、「これは起承転結の承にすぎない」という予感があった。なぜなら、梨沙が無理に背伸びをして本当の自分を見失っているような描写があったからだ。
たとえば、先輩に「メガネの跡ついてる」と指摘されるシーンがある。これは、眼鏡を外してお洒落をしたつもりになっているかもしれないが、実際は無理に「本当の自分」を押さえ込んでいるだけということの比喩になっている。眼鏡を上手に使った描写だと感心する。
そして「転」では、やはり眼鏡をかけなおす。
自分が入ろうとしていたVIPの世界が、そんなに素晴らしいものではないということ。そして自分が無理をしてその世界に入る必要なんてないということ。今まで自分が勘違いをしていたということ。本当の自分というものを見失っていたということ。梨沙は、こういった世界の真実を、一気に理解する。そしてその象徴が、眼鏡をかけるという行為に表れる。そしてこのシーンのモノローグがとても良い。「メガネをかけるとモノがはっきり見えてくる」。眼鏡をかけるという行為が、世界の真実と本当の自分をしっかり理解することの象徴となっているのだ。
そして眼鏡をかけ直した梨沙を、憧れの先輩がしっかり受け止めてくれる。病気になったメガネザルを病院に連れて行ったことが直接のきっかけになっているのも、また良い。
最初の出会いも眼鏡だし、「見る」という主体性の象徴としての眼鏡もしっかり描かれているし、メガネザルも重要アイテムになっているし、起承転結構造になっているし、眼鏡的な見所が満載の良作である。
書誌情報
同名単行本全一冊。作者の聖千秋は青春のほろ苦さを厭味なく爽やかに描くことが得意な作家だが、密かに眼鏡っ娘キャラも多い。
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