この眼鏡っ娘マンガがすごい!第16回:くらもちふさこ「うるわしのメガネちゃん」

くらもちふさこ「うるわしのメガネちゃん」

集英社『別冊マーガレット』1975年9月号

016_01前回「メガネちゃんのひとりごと」に続いて、くらもちふさこ作品。眼鏡エピソードという意味では、この作品のほうが純度が高い。

ヒロインの眼鏡っ娘ヨーコは、家が眼鏡屋さん。検眼士の高貴さんに憧れているが、眼鏡がコンプレックスで、告白することもできない。そんななか、高貴さんの弟で本作のメガネスキーヒーロー、幸路が登場する。この幸路が並々ならぬメガネスキーで、彼の行動や発言の一つ一つが心にしみる。まず登場シーンが衝撃的。

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「ヘエ、メガネ屋の娘が近眼かあ」。並みのメガネスキーでは、一生のうちに一度たりともこんな劇的なセリフを吐く機会は与えられない。私も眼鏡屋の娘の眼鏡っ娘と知り合いたい。

016_03そしてヨーコが眼鏡を外そうと間違った決意をしてしまったときに、なんとか眼鏡をかけさせようと説得する姿が素晴らしい。

そして、さらに幸路は、自分がメガネスキーであるとカミングアウトする。かつて好きになった憧れの女性が「メガネをかけていた」ことをことさら強調し、さらに「とてもメガネの似あう人だけど、ヨーコちゃんはもっと似あうと思ってる」と説得を続ける。ふられた理由を、ヨーコには「メガネのせい」だと言われるが、「おれ、かけたほうがひきしまるもん」と、意に介さない。見上げたメガネスキー魂。この男、本物のメガネスキーである。見習いたい。

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しかし幸路の説得の甲斐なく、ヨーコの決心は変わらない。そこで幸路は賭けに出る。もしもヨーコが眼鏡なしで生活することができたら、眼鏡が必要ないことを意味する。しかし不便なことが明らかだったときは、眼鏡は切っても切り離せない関係にあることを意味する。幸路は、ヨーコにとって眼鏡が体の一部であることを証明しようとしたのだ。そのときのモノローグが素晴らしい。

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「かけてほしいなメガネ。あの娘とても似あうんだから」。この男、完全に我々の同志である。
そしてヨーコは台風の中、眼鏡無しで大丈夫なことを証明しようと頑張るが、当然大丈夫じゃない。それどころか命の危険すら感じるような状況で、幸路は陰からヨーコを助ける。この男、自分が眼鏡っ娘のメガネの代わりを務めているのだ。男ならこうありたい。
しかし最後の最後、あと一歩で眼鏡無しになりそうなところで、幸路はヨーコの足を引っ掛けて邪魔をして、世界の真実を告げる。「メガネをかけたままでいいと思う」

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幸路の説得に、ついにヨーコが心を動かされ、メガネを受け入れる。幸路がヨーコにメガネをかけるシーンが非常に美しい。

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メガネをかけることによって「まぶしい世界」が戻ってくる。そしてヨーコはメガネをかけて初めて幸路を自分の目でしっかりと見る。自分のメガネの代わりを務めた男がまぶしく輝いていることを知ったのだ。我らがヒーロー、メガネスキー幸路の眼鏡への情熱が一人の眼鏡っ娘を救った、感動的な眼鏡物語だ。

■書誌情報

「メガネちゃんのひとりごと」と同じく単行本:くらもちふさこ『赤いガラス窓』 (マーガレット・コミックス、1977年)に所収。

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第15回:くらもちふさこ「メガネちゃんのひとりごと」

くらもちふさこ「メガネちゃんのひとりごと」

集英社『別冊マーガレット』1972年10月号

015_01くらもちふさこのデビュー作が眼鏡っ娘マンガだったことは、いくら強調しても強調したりない、極めて重要な事実だ。
1980年代のくらもちふさこと言えば、押しも押されぬ少女マンガの看板作家で、特に都会派感覚にあふれるオシャレな作風で一世を風靡した。平成の世でも新たな作風で読者を魅了し続ける、常に進化し続ける超一流作家だ。その天才くらもちふさこは、眼鏡っ娘マンガと共に我々の目の前に現れたのだ。

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主人公のアコは、眼鏡っ娘。しかし眼鏡にひどくコンプレックスを持っている。東くんに片思いしているが、眼鏡コンプレックスのために告白する勇気もない。
しかし、思いがけずに東くんに自分の思いを伝えてしまう眼鏡っ娘。近眼のため、眼鏡を外していたから、目の前にいたのが東くんだと気が付かなかったのだ。しかし、ここで東くんが見せた態度が、決定的に男前だった。

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「だってメガネかけてるのよ」と涙を見せる眼鏡っ娘に、東くんは「メガネはきみの魅力だぜ」と世界の真実を告げる。東くんのこのセリフによって、眼鏡っ娘のコンプレックスは溶けていったのだった。かっこいいぜ、東くん!

015_04 1972年のデビュー作なのに、既にコマ割りのテクニックがすごい。眼鏡っ娘がメガネを外して近眼なところでは、コマの枠線がふらふら揺れて視界がぼやけていることを表現するなど、当時のプロの水準からみても新しい試みを各所に確認できる。天才の片鱗がデビュー作から見られるのだ。そして、そのデビュー作が眼鏡っ娘マンガであり、しかも「メガネはきみの魅力だぜ」というセリフに明らかなとおり、眼鏡のまま少女が受け入れられるというストーリーであったことは、少女マンガ史を考える上で決定的に重要な事実だ。少女マンガで「メガネを外して美人」などというのは、力のない無能な作家が考えなしに描いているだけだ。力量があるスター作家は、眼鏡っ娘が眼鏡のまま幸せになる作品を描く。本作はその事実を端的に表している、雄弁な証拠と言えよう。

■書誌情報

単行本:くらもちふさこ『赤いガラス窓』 (マーガレット・コミックス、1977年)に所収。amazonではプレミア出品が多いが、まだ手に入りやすい部類か。

あるいは文庫本:くらもちふさこ『わずか5センチのロック』 (集英社文庫)にも所収。こちらのほうが手に入りやすそう。
または大型ムック本『くらもちふさこの本』 (1985年)にも所収されているが、激プレミア。

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