この眼鏡っ娘マンガがすごい!第44回:森生まさみ「城南高校生徒会シリーズ」

森生まさみ「城南高校生徒会シリーズ」

白泉社『ララ』1988年~91年

044_02森生まさみの描く眼鏡っ娘は、男前だ。「城南高校生徒会シリーズ」のヒロイン(ヒーロー?)は、生徒会長を務める日下部圭子。恋愛沙汰がメインの話ではなく、学園で起こる様々なトラブルを眼鏡っ娘の知恵と勇気で解決する話だ。学園ドラマとして普通におもしろく、少女マンガが苦手な男子でも比較的すんなりと入っていける作品だと思う。

ストーリーがおもしろく、眼鏡っ娘をはじめとするキャラクターが活き活きと魅力的なのはともかくとして、眼鏡的に大注目したいのは、眼鏡の描き方だ。生徒会長がかけている眼鏡は黒縁セルフレームなのだが、その描写が非常に丁寧で見どころが多いのだ。特に卓越したセンスを感じるのは、ツルの描写である。実際にセルフレームを持っている人は当然知っていることなのだが、眼鏡のツルは単調な直線ではなく、なまめかしい曲線の組み合わせでできている。しかし残念ながら絵でこの曲線を丁寧に表現する作品はあまり多くない。森生まさみが描く眼鏡は、このツルの曲線がしっかりセクシーに再現されている。
注意したいのは、これが極めて高い技術に支えられているということである。そもそもツルをしっかり描くためには、その前提として眼と耳のデッサンが整っていなければならない。実はそれが非常に難しい。マンガで眼鏡のツルがあまり描かれないのは、マンガ家があえて描かないのではなく、実はデッサン上の問題で「描けない」のである。森生まさみは、この技術上の問題をあっさりとクリアしているからこそ、そのうえで眼鏡のツルの曲線をしっかりと描けるのだ。

そして下の引用図を確認していただきたい。ここまで丁寧に眼鏡のツルを描写した絵には、滅多なことでは遭遇しない。

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実に感動的な描写だ。眼鏡のツル自体が描かれることが少ないマンガ界にあって、ここまで丁寧に眼鏡を描写してくれる。本当にありがたい。会長がモテるのも、当たり前といえよう。

 

■書誌情報

044_01「城南高校生徒会シリーズ」は、単行本『生徒全員に告ぐ!』と『ヒロイズム前線』の全2巻。単行本は絶版で古本で手に入れるしかないが、人気があって大量に出回っているので手に入りやすい。文庫版を電子書籍で読むこともできる。

森生まさみには、他にも素晴らしい眼鏡っ娘作品が多い。ありがたい作家だ。

Kindle版:森生まさみ『生徒全員に告ぐ!』1巻(白泉社文庫)

Kindle版:森生まさみ『生徒全員に告ぐ!』2巻(白泉社文庫)

単行本:森生まさみ『生徒全員に告ぐ!』(花とゆめCOMICS―城南高校生徒会シリーズ、1991年)

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第12回:ひかわきょうこ「ちょっとフライデイ」

ひかわきょうこ「ちょっとフライデイ」

白泉社『ララ』1981年12月号~82年4月号

012_01眼鏡っ娘の弥生ちゃんは、とある金曜日に眼鏡を割ってしまったので、眼鏡を新調しにメガネ屋に行くことにした。が、近眼でまったく前が見えないため、ドジばかり。困っている弥生ちゃんを助けてくれたのは、ザンバラ髪でハスキー・ボイスの男性。顔はぼけぼけで全く見えなかったので、記憶の中のハスキーボイスを頼りにミスター・フライデイを探す眼鏡っ娘だったが、そう簡単には見つからない理由があった……。

嫌な人間がまったく出てこず、ストレスを感じずに楽しめて、ほわっと温かい気持ちになれる物語。近眼エピソードが効果的に散りばめられていて、眼鏡的にも納得の物語展開。特にミスター・フライデイと出会うくだりでは、眼鏡が大活躍。ミスター・フライデイのセリフ「これは、あの日買ったメガネかい?」には、眼鏡が繋いだ二人の絆が凝縮されている。眼鏡とは、二つのレンズを繋げる架け橋の象徴だったんだね。

012_02この作品は物語的にも近眼納得で素晴らしいのだが、かわいい眼鏡ビジュアルも必見。眼鏡を外したところよりも、眼鏡をかけているときのほうがきちんとかわいく描けているのが素晴らしい。めがねビジュアルの系譜を辿ると、本作は80年代眼鏡ビジュアルの本流に位置付けてよい作品だろうと思う。第11回で紹介した太刀掛秀子の作品が1980年で、本作は1981年連載開始。太刀掛秀子が70年代眼鏡ビジュアルを集大成したとすれば、それを引き継ぎながら80年代の眼鏡ビジュアルの方向性を示したのが本作と言えるだろう。両作を並べてみると、70年代から80年代への眼鏡ビジュアルの展開過程が分かりやすく見えるように思う。これを引き継ぎながらさらにビジュアルを推し進めて80年代半ばに花開く眼鏡っ娘萌えの基礎を作るのが竹本泉とかがみ♪あきらになるが、その話はまたの機会に。

012_03そういえば、委員長の仕掛け人・マンガ家の山本夜羽も、ひかわきょうこの眼鏡に大きな影響を受けていたと言っていたように記憶する。本作が眼鏡っ娘描画史の里程標として重要な位置づけを持つのは間違いないだろう。

■書誌情報

古本で容易に手に入る。古本で1円なのは、人気がないからではなくて、当時人気がありすぎて大量に数が出回ったから。

ひかわきょうこ『ちょっとフライデイ』 (花とゆめCOMICS、1982年)

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