この眼鏡っ娘マンガがすごい!第61回:みやぎひろみ「ガラス玉輪舞」

みやぎひろみ「ガラス玉輪舞」

秋田書店『月刊ひとみ』1984年?

061_02繊細な描線で構成された、美しい画面の少女マンガだ。みやぎひろみが引く線は端正で美しく、惚れ惚れする。まんまる眼鏡の描線の美しさよ。
描線の美しさの他に目が吸い寄せられるのは、眼鏡デッサンの正確さだ。少女マンガでよく見られる「貼り付き眼鏡」は、本作では見られない。みやぎひろみの絵は、横顔がとても印象的だ。決定的なコマで横顔のアップになることが多い。正確なデッサンの眼鏡が、端正な画面の印象をさらに強めている。

ヒロインは、高橋槙子14歳中2。全3話で、14歳、16歳、18歳のエピソードが描かれる。恋の相手の頼近くんは、幼稚園からの幼馴染。槙子は幼稚園のころから頼近のことが好きだったのだが、そのときのエピソードが素晴らしい。槙子は幼稚園のときからちゃんと眼鏡をかけているのだ。
しかし相愛だったはずのふたりの関係は、大きくなるにしたがってギクシャクしていく。頼近はノーテンキだし、槙子はなかなか素直になれないのだ。

061_03素直になる勇気を持てなかった眼鏡っ娘だが、頼近の甥っこの赤ん坊の面倒を一緒にみるなかで、たくましく成長している頼近の姿を改めて知る。頑なに過去にとらわれている自分に気がつく。眼鏡っ娘も、少しずつ成長していくのだった。

本作の構成は、いわゆる「乙女チック」ではない。コンプレックスを「ほんとうのわたし」へと昇華していくような物語構成ではない。つまり、一気呵成に物語を急転させる「起承転結」構造というものがない。しかしそれは本作がつまらないということを意味しない。日常のエピソードを丁寧に描き、登場人物たちの感情の起伏をひとつずつ編み上げていくことで、キャラクターに寄り添っているような気持ちにさせてくれる。画面と同様に、物語も端正に作られている。
061_04それゆえに、眼鏡というアイテムに、一切の認識論的な意味が持たされていない。眼鏡っ娘は、単に近眼だから眼鏡をかけているだけであって、物語の都合に合わせて眼鏡を脱着することもない。だからキャラクターの性格にも「眼鏡らしさ」というものがない。それが本作の見所であるとも言える。空気のように眼鏡をかける、それは実は達人の境地だ。キャラクターに眼鏡をかけさせると、ついそれを使って物語を構成したくなったり、つい「眼鏡らしさ」を追求したくなってしまう。その欲求が落とし穴になる場合もある。眼鏡だから、眼鏡。その境地に到達することは、実はなかなか難しい。

みやぎひろみは、本作以外にもたくさん眼鏡っ娘を描いている。中短編集には、収録作中にだいたい一作は眼鏡っ娘マンガが含まれている。質的にも量的にも、極めて重要な眼鏡作家であることに間違いない。残念ながら現在では名前をよく知られているとは言い難いが、ぜひきちんと眼鏡史の中に名前を刻んでおきたい。

 

■書誌情報

061_01本作以外にも良質な眼鏡っ娘作品が多い。「ガラス玉輪舞」は同名単行本に全3話収録。他に、「まりこのま」が同名単行本に収録。「星降る夜に逢いたい」が同名単行本に収録。「月見る月の月」が『魚たちの午後』に収録。どれも眼鏡に認識論的意味を持たせない、端正な画面の端正な眼鏡っ娘物語。

単行本:みやぎひろみ『ガラス玉輪舞』(ひとみコミックス、1984年)
単行本:みやぎひろみ『まりこのま』(MISSY COMICS、1987年)
単行本:みやぎひろみ『星降る夜に逢いたい』(MISSY COMICS、1988年)
単行本:みやぎひろみ『魚たちの午後』(ミッシィコミックス、1988年)

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