大和和紀「フスマランド4.5」
講談社『週刊少女フレンド』1984年第3号~第8号
本作は「眼鏡っ娘起承転結理論」の代表と言ってもよい重要作品だ。
(起)全寮制の高校に通う主人公のカチコさんは、超がつくカタブツ眼鏡っ娘ちんちくりん。流行にはいっさい目もくれず、朝は毎日乾布摩擦。同級生はみんなカチコさんのことを時代錯誤の情緒欠陥とバカにしていた。しかし、星也くんだけは、そんなカチコさんをバカにせず、優しく接してくれた。カチコさんのなかに星也くんへの仄かな恋心が芽生える。
(承)そんなカチコさんが生活する女子寮の和室は、実は異世界への入り口になっていた。異世界への扉を開く和歌の暗号を唱えたカチコさんは、「フスマランド」へと吸い込まれていく。そこは隠された願望が実現してしまう世界。なんとカチコさんは超美人になってしまった! フスマランドのイケメンたちと、てんわやわんやの大騒動を引き起こすカチコさん。
このときフスマランドでなくなった眼鏡を探すエピソードは、他に類例がなく、おもしろい。たくさんの眼鏡虫の群れに「直立不動!」と命令すると、カチコさんの眼鏡だけピタっと止まる。眼鏡にも持ち主の人格が沁み込んでいたのだ。
(転)ところが大騒動を繰り広げるうちに、フスマランドの住人たちが現実世界に飛び出し始める。カチコさんが美人になった姿も、星也くんにバレてしまう。星也くんは、そんなカチコさんに幻滅する。「きみはほかの女の子とはちがうと思ってた」から星也くんは眼鏡のカチコさんのことが好きだったのだ。しかし眼鏡を外したいという邪悪な心を抱いたカチコさんに対して「人を見る目のない自分がいやになった」と言って、カチコさんから去っていく。
(結)星也は、実は以前からフスマランドに出入りして、大きな木に変身していた。人間不信になって、静かに暮らしたかったのだ。このままだと、星也くんは永久にフスマランドから出てこない。
そこで、カチコさんは自分の意志でフスマランドの魔力を打ち破り、本当の自分に戻る。眼鏡を取り戻す。
本当の自分を取り戻し、眼鏡をかけたカチコさんを見て、星也くんも本来の姿を取り戻す。眼鏡こそが「本当の自分」の象徴であり、アイデンティティの源である。眼鏡を失った偽りの姿には、偽りの幸せしかやってこない。「ほんとのあたし」は、眼鏡とともにあるのだ。
巨匠、大和和紀だからこそ、安易に眼鏡を外して美人などというくだらない物語は作らず、「眼鏡っ娘起承転結構造」によって世界の真実を描き出す。邪悪なコンタクトレンズのCMに騙されてはいけない。眼鏡を外すのは起承転結の「承」の段階に過ぎない。その先、必ず「転」で価値観の転回が発生し、「結」で「本当の私」を取り戻すために必ず眼鏡をかけなおすことになるだろう。それが世界の真理だ。
■書誌情報
単行本:大和和紀『フスマランド 4.5』(講談社コミックスフレンド、1985年)
文庫本:大和和紀『フスマランド4.5』(KCデラックス―ポケットコミック、1998年)
人気があって数が大量に出回っているので、古本で手に入りやすい。
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