この眼鏡っ娘マンガがすごい!第11回:太刀掛秀子「まりの君の声が」

太刀掛秀子「まりの君の声が」

集英社『りぼん』1980年4月号~12月号

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とにかく絵がかわいい。太刀掛秀子の描く眼鏡っ娘は、可憐だ。一昨年開催したメガネっ娘居酒屋「委員長」に中村博文氏が出演したが、そのときに太刀掛秀子の絵が好きで、練習のお手本にしたと伺った。言われてみれば、確かに髪の毛や植物の繊細な描線やコマ割りなどの画面構成に面影があるような気がしてくる。70年代少女マンガの集大成とでもいえるような繊細かつ華やかな表現技術、特に絶品の眼鏡描写技術の素晴らしさは、今見ても色あせていない。

011_02本作ヒロインの眼鏡っ娘、西崎まりのは、大学生。あたたかく魅力的な声を持つまりのは、人形劇の世界に魅せられていた。メガネくんの部長と一緒に、大学の人形劇サークルで子供たちのために公演を続ける。そんなまりのに次第に惹きつけられていく主人公のよしみ君だったが……。

1970年代後半から80年ごろまで、集英社『りぼん』誌上を「乙女ちっく」が席巻する。特に「乙女ちっく」の中心にいたのが、陸奥A子、田渕由美子、太刀掛秀子の3人だった。特に眼鏡っ娘の歴史を考えたとき、りぼん「乙女ちっく」は決定的な役割を果たしている。本コラムでも「乙女ちっく」の意義については繰り返し言及することになるだろう。
本作は、「乙女ちっく」が成熟し、作画技術が一つの極点に達したところで描かれている。眼鏡っ娘をヒロインとして9か月間連載されるという、『りぼん』誌上に燦然と輝く眼鏡っ娘マンガの代表作と言ってよいだろう。

011_03しかし同じ「乙女チック」といっても、作風はまったく異なる。陸奥A子は超ポジティブ能天気、田渕由美子は近代的自我の萌芽、太刀掛秀子は繊細シリアス。この作品も、キャラクターの内的な葛藤を繊細に描ききることで、読んでいる最中に身悶えしてしまうような作品に仕上がっている。

そんなわけで、すかっとした娯楽を求めている人には太刀掛秀子作品はお勧めしにくいのだが、キャラクターの葛藤に付き合って一緒に泣いたり笑ったり、じっくり作品を読もうという人には、ぜひ手に取ってほしい作品だ。

■書誌情報

単行本は全2巻。現在、単行本は手に入りにくいが、文庫版(全1巻)はおそらく容易に手に入る。

文庫版:太刀掛秀子『まりのきみの声が』 (集英社文庫)

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