この眼鏡っ娘マンガがすごい!第34回:大野潤子「点目な気持ち」

大野潤子「点目な気持ち」

小学館『別冊少女コミック特別増刊花林』1991年9月号

034_01「少女マンガでは、メガネを外したら美人になる」などと、言われ続けている。その言葉が極めて不当であることは、我々はこれまでも「眼鏡っ娘起承転結理論」などで論理的に明らかにしてきた。そして当の少女マンガ自身も、その言葉の理不尽さについて声を挙げている。中でも本作は、この問題に真正面から取り組んだ作品として、長く記憶されるべき傑作だ。

眼鏡っ娘女子高生、森音朋子は美術部員で、視力は0.05。夕暮れ時、眼鏡を外して部室から見える風景を描いている。近眼にしか見えない、ぼんやりとした風景。その絵は、他の人間にはヘンテコな抽象画にしか見えない。しかしそんな絵に興味を持って近づいてきたのが、女嫌いで有名な緒海一喜。緒海は眼鏡っ娘に、絵を描いているところを見てていいかと聞く。朋子はちょっと迷うが、許可する。そして、絵を描くために眼鏡を外す。眼鏡を外さないと、近眼でぼやけた風景が見えないのだから仕方がない。しかし、眼鏡を外した朋子は、美少女になるどころか、とたんに地味な点目顔になってしまうのだった!

034_02このときに眼鏡っ娘がかました演説が、クワトロ大尉のダカール演説に匹敵する。本作の見どころである。そしてその演説に感銘を受けた緒海も、静かに眼鏡を外す。そして点目。クールな女嫌いと言われていた緒海も、眼鏡を外すと地味な点目顔になってしまうのだった! 実は幼少時に眼鏡を外した顔を女の子に笑われて以来、女性が苦手になってしまったのだった。

お互いに眼鏡を外すと点目になるところから、次第に親近感を持ち始める二人。しかし朋子の親友が緒海を好きだったことから、大きなトラブルに発展していってしまう。眼鏡っ娘は、態度をはっきりできなかった自分が悪いと思いこむ。「私は人を好きになるのもド近眼みたいで、この絵のようににじんでぼんやりしてる」と自分を責める。そんな眼鏡っ娘を救えるのは、やはり同じ風景が見えるメガネ君しかいないのだ。そう、他人から自分の姿がどう見えているかが重要なのではなく、自分の目から世界がどう見えているかが一番重要なのだ! 風景を共有していることを確認できた二人がハッピーエンドを迎えるのは、世界の摂理だ。

034_03大野潤子は、男性にはあまり知名度がないかもしれない。が、桑田乃梨子、遠藤淑子といった作家にピンとくる人だったら、ぜひ手に取ってほしい作家だ。劇的なドラマはないけれど、読んだ後に優しくなれる、心温まる作品をたくさん描いている。他に「別れのナス」や「プリズムの青」も、いい眼鏡っ娘マンガだ。

■書誌情報

単行本:大野潤子『白花幻燈』(小学館フラワーコミックス、1992年)に所収。古書で比較的入手しやすいと思う。

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