この眼鏡っ娘マンガがすごい!第156回:井上和郎「美鳥の日々」

井上和郎「美鳥の日々」

小学館『週刊少年サンデー』2002年第42号~2004年第34号

このコラムを書き続けて、改めて気づいたことがあります。記憶に残る素晴らしい作品になるためには、可愛い眼鏡っ娘が登場することは確かに大切なのですが、負けず劣らず「眼鏡を愛する者」(以下、メガネストと呼びます)が魅力的であることが重要だということです。たとえばそういう作品として、『屈折リーベ』『ラブやん』『妄想戦士ヤマモト』や『境界の彼方』などの名前を挙げられます。

というわけで、本作もそういうメガネストが魅力的な作品の一つであります。とはいえ、本作の問題は、主人公の沢村正治が本当にメガネストかどうか、その一点にあるでしょう。というのは、作中では明らかに眼鏡っ娘のことが好きであろう描写が連発されるのですが、肝心なところではぐらかされてしまうからであります。果たして彼はメガネストなのか、その点に着目して見ていきましょう。

たとえばdays13やdays22では、正治は眼鏡っ娘のゆかりちゃんに圧倒的に悩殺されます。明らかに眼鏡っ娘に反応しているのです。

いやあ、キラキラしてますねえ。私も悩殺されます。正常な反応です。
とはいえ、問題はdays27なのです。正治をメガネストだろうと推測した姉が凶悪な眼鏡トラップを仕掛けるのですが、なんとこの素晴らしい眼鏡っ娘に、正治はまったく反応しないのです。これでトキメかないようでは、断じて眼鏡フェチとは呼べません。

このメガネ姿に反応しないようでは、正治が本当にメガネストかどうか、疑わしいのであります。
が、しかし。ちょっと冷静になって考えてみれば。むしろ正治は極めつけに重度なメガネストなのかもしれません。というのは、ひょっとしたら伊達メガネには反応しないということかもしれないからです。伊達メガネを否定する、重度の原理主義メガネストの可能性があるわけです。
だがしかし、この仮説も、days20で覆されているのです。正治は、変装ダテめがねに見事に反応するのでありました。

伊達眼鏡のヒロインに、「ズギューンッ」っとハートを射貫かれております。伊達かどうかは、重要な論点ではなかったのです。
正治が眼鏡っ娘に対して防御不能であることは、他にも様々なエピソードで描かれております。彼がメガネストであることに、もはや何の疑いもないのであります。

正治がメガネスキーになった経緯は、days58に丁寧に描かれています。小学校のクラスメイト、保健委員の眼鏡っ娘が、彼の初恋の相手だったのでした。うん、超かわいい!

こんな眼鏡っ娘が幼なじみでは、メガネストになるのも無理はありません。
この眼鏡っ娘、days64では腐って再登場するのですが。

というわけで、こんな重度のメガネスキー正治がどうしてdays27で眼鏡っ娘に無反応だったかが、改めて重大な問題として浮かび上がってくるのです。残念ながら作中では、直接その疑問に対する解答を見出すことはできません。理由が明確に分かる人には、ぜひご教示いただきたいところです。よろしくお願いします。
今のところ、個人的には、問題を解く鍵となるのは「お姉さん」の存在ではないかなあと考えております。正治の姉は、圧倒的な眼鏡ビューティーなのです。性格はワイルドなんですが。

で、正治はもちろん肉親である姉には眼鏡だからといって反応することはありません。これが重要な事実かなあと思うわけです。つまり、身内であると思っている対象は、本能的に「萌え」の感情から外すということなのかもしれません。萌えの聖典『妄想戦士ヤマモト』でも、あのヤマモトですら実の妹がいるために「妹萌え」を理解できないというエピソードが描かれています。本作でも、たとえ眼鏡であっても「身内」には萌えないという原則が現われているのかもしれません。

しかし、この姉、とてもキュートな眼鏡っ娘ですねえ。個人的には、本作に出てくる眼鏡っ娘の中で、いちばん魅力的な人物であるように思うのでありました。
ということで、魅力的な眼鏡っ娘が満載な上に、メガネストの生態も描かれている作品なのでした。

書誌情報

同名単行本全8巻。電子書籍でも読むことができます。
本文中では眼鏡っ娘に夢中で作品そのものに触れる余裕がありませんでしたが、改めて見てみると、読後感がとても爽やかな秀作です。一見して面白おかしくフェチズムを追究しているように見えながら、実際に読んでみると、人間のかけがえの無さに対する暖かな眼差しと信頼感が全編に漲っていて、とても温かい気分になれるのです。表面的に見るだけでは奇をてらった設定に目を奪われるかもしれませんが、本質的には王道ド真ん中の清々しいラブコメであるように思います。

【Kindle版】井上和郎『美鳥の日々(1)』小学館、2003年

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