この眼鏡っ娘マンガがすごい!第123回:横谷順子「ハッピー♥プー」

横谷順子「ハッピー♥プー」

集英社『デラックスマーガレット』1980年1月号

本来なら「眼鏡de結婚式」が描かれているところに注目したいのだが、不本意ながらオナラに全部もっていかれてしまう問題作。
主人公の眼鏡っ娘マキは、眼鏡を外すと実は大人気女優のかずみ。しかし眼鏡っ娘マキのことを、誰も大人気女優だと気が付かないのだった。となれば、眼鏡をかけた本当の自分と女優である自分とのアイデンティティの葛藤がテーマとなりそうなものだが、本作は強烈な異彩を放っている。異彩というか異臭というか。マキは、おならをするのがくせになっているのだった。マキの放ったオナラでヤクザを撃退してしまうほどだ。

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そんなマキに、芸能記者の茂巳くんが近づく。最初は大女優かずみの取材をしようと思っていた茂巳だったが、だんだんマキと仲良くなっていく。マキは、茂巳の前では平気でオナラできるのだった。
ある日、喫茶店でマキと茂巳が二人でいるとき、マキがおならをしてしまう。そのときマキに代わって茂巳が喫茶店にいる客に謝罪する。

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いつもマネージャーにオナラをかばってもらっていたマキは、改めてオナラが他人の気分を悪くするということを自覚する。が、その自覚が悪い方に出てしまう。女優かずみとして記者会見しているとき、いつもなら自分がしたオナラをマネージャーがかばってくれるのに、無意識のうちに自分がオナラをしたと認めて謝罪してしまったのだ。清楚が売りだった大女優がオナラをしたということで、記者会見場は大騒ぎになる。
ここでヒーロー茂巳が男を見せる。

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茂巳はマキをかばう。が、マキにとってみれば、女優の「かずみ」ではなく眼鏡っ娘の「マキ」と名前を呼んだことのほうが驚きだった。誰も本当の自分に気が付かなかったのに、茂巳だけは自分に気が付いていたのだ。本当の私を理解してくれたことに感激したマキは、記者会見もそっちのけで、女優としてのキャリアを全て放り出して、茂巳に抱きつく。
物語はハッピーエンドを迎え、結婚式の場面。この結婚式が凄い。あの小野寺浩二ですら成し遂げられなかった眼鏡de結婚式なのだ。そしてまた、かずみとマキが同一人物だったことに茂巳が気が付いた理由が凄い。

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そして結婚式の真っ最中、いよいよ誓いのキスというときにも、オナラ。オナラで全部台無しになっているとはいえ、「眼鏡de結婚式」という実例が1980年に存在していることは事実としてしっかり押さえておきたい。

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■書誌情報

単行本『ほほえみベンチ』(集英社、1980年)所収。amazon古書でもヒットしないが、古本屋を丹念に回れば手に入ると思う。

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第105回:日向まひる「I miss you 後ろの席の厄介な男」

日向まひる「I miss you 後ろの席の厄介な男」

集英社『デラックスマーガレット』1996年5月号

不器用で意地っぱりな女の子が、眼鏡をきっかけに素敵な男子と知り合い、眼鏡をきっかけに仲良くなる、ハートフル恋愛マンガ。眼鏡っ娘の眼鏡を素直に褒めるといいことがあると教えてくれる道徳的教材として最適だ。

眼鏡っ娘のマリ子は高校2年生。新学期で学年がひとつ上がり、後ろの席になった男子に話しかけられるが、眼鏡をネタにされてしまう。

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まず、べっこう縁の眼鏡が丁寧に描かれていて、素晴らしい。描くのが大変だから、マンガでべっこう縁を見ることはめったにない。そしてマリ子が「このメガネ気に入ってんだからっ」と叫ぶのも素晴らしい。この時点で既に勝利の予感がするだろう。
後ろの席の手塚くんの眼鏡いじりは、さらに続く。クラス議員を決めるとき、颯爽と立候補した手塚くんは、相方としてマリ子を指名する。その指名の理由がすごい。

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うむ。見た目が委員長だから、委員長。『To Heart』で見たようなエピソードだが、おそらく本作では手塚くんの「方便」のような気がする。手塚くんはきっとマリ子と仲良くなりたくて、こんな手を使ったのだ。
そんなこんなで、ちょっかいをかけてくる手塚くんに対して、マリ子は当初はいい印象を持っていなかった。が、そんな悪い印象を大逆転させるきっかけを作ったのは、やはり眼鏡だ。

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手塚くんにイジられるのがイヤで眼鏡をはずして園芸部の活動に励むマリ子。眼鏡を外して美人になるなんてことはなく、やぶにらみになって怖い顔になっているというエピソードもちゃんと挟んであって素晴らしい。そこにやってきた手塚。またイジられるかとおもったマリ子だったが、手塚くんの台詞は予想外のものだった。「あのメガネは?」

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ここで炸裂する手塚くんの決め台詞を見ていただきたい。「よく似合ってるから」。これだ。眼鏡の女子にかけるべき言葉は、これだ。これ以外にない。マリ子の反応を見よ。眼鏡が似合っていることを褒められていやな気持ちになる女子がいるわけがない。
そして手塚くんは、マリ子が眼鏡のままでいてくれるよう、たたみかける。眼鏡の着脱を繰り返すと視力低下が進行することを理論武装として、眼鏡をかけ続けるよう説得するのだ。

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「ずっとかけてるほうがいいと思うなっ」と言われたときの、マリ子の気持ちの動き、この表情。一瞬で恋に落ちている。キュンキュンきている。眼鏡をかけ続けてほしいと言うと、女子はキュンとするのだ!

我々も手塚くんを見習って、眼鏡っ娘には「ずっとかけてるほうがいいと思うな」と積極的に声をかけていきたい。眼鏡をかけるよう女子を励ますことが、人としての正しい道なのだ。

■書誌情報

本作は60頁の短編で、単行本『むすんでひらいて』所収。なかなか素直になれない若者たちのハートフルな恋愛物語ばかりでキュンキュンするのだぜ。古本で比較的容易に手に入る。

日向まひる『むすんでひらいて』集英社マーガレットコミックス、1997年

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