この眼鏡っ娘マンガがすごい!第27回:山本直樹「BLUE」

山本直樹「BLUE」

小学館『ビッグコミックスピリッツ』1991年新春増刊号

027_02間違いなくマンガの歴史に名を留める作品だ。内容が眼鏡っ娘で素晴らしいことは言うまでもないのだが、東京都の青少年健全育成条例で有害指定を受け、単行本が回収絶版となり、その事件が契機となって日本全体に表現規制問題の愚かさが知れ渡ったということで、記念碑的な位置づけを持つ作品となっている。本作を有害指定してしまった東京都青少年課の極めて愚かな判断、いや、ある意味では非常に的確な判断が、マンガと性表現に対する多角的な議論を沸騰させた。作者の山本直樹は表現規制に関する様々な集会に呼ばれ、作家の立場からの発言を行った。それは静かで控えめな主張だったが、表現規制を訴える人々の独りよがりの馬鹿馬鹿しさを浮き彫りにするには十分だった。『COMIC BOX』1992年7月号は、山本直樹特集「僕って有害?なんちゃって。」を組んで青少年健全育成条例を批判し、絶版となって入手困難となった本作を再録した。この流れの中で、愚かな東京都の意図をあざ笑うかのように本作は神話的な価値を持つ作品に祭り上げられ、何度も版を継いで語り継がれている。その本作のヒロインが眼鏡っ娘であるということは、眼鏡というアイテムの哲学的意義を考察するうえでも重要な事実である。

027_01というわけで、本作はエロマンガなので、未成年は扱い注意だ。
ヒロインは、高校生眼鏡っ娘=九谷さん。頭もよく運動もできるが、屋上にある天文部の部室で、主人公の灰野くんとセックスを繰り返す。性感を増すために摂取しているのが、Blueという名のクスリだ。というわけで、ビッチの眼鏡っ娘が性交する姿を見て、我々は欲情するわけだが、それで終わっては天下の都条例様がわざわざ有害指定をする意味などない。本作を読み終わったときには、青春とは何か、人生とは何か、大人になるとはどういうことか、どういう生き方が望ましくて、そのために何が犠牲になるのか、いやでもそういうことを考えさせられる。甘酸っぱい後味が残るのだ。天下の都条例様がわざわざ有害指定をしてくださるからには、それくらいの価値がなければならないということだ。いやはや。ご丁寧にも本作をわざわざ有害指定して無用な議論を沸騰させた東京都は、モノを見る目がないことを全国に知らしめてしまったのだった。

027_03作者の山本直樹=森山塔は、眼鏡っ娘マンガの歴史を語る上では絶対に欠かせない超重要人物だ。特に80年代後半から眼鏡っ娘作品を量産しているという事実だけでも、歴史に名が刻まれるべき功績だ。その中でもおそらく最も影響力があったのは単行本『ペギミンH』ではないかと思う。表題作「ペギミンH」でもものすごい眼鏡っ娘:枢馬こけさんが大活躍するが、私が最も興奮したのは同単行本収録の「恋のスーパーパラシューター」だった。物語の冒頭で「そんな君がいちばん好き」と言っている時点で、完全に70年代オトメチック少女マンガのオマージュとなっている。森山塔が意図的に眼鏡っ娘を主題としていたことがよくわかる。
眼鏡暗黒時代の80年代後半から90年代前半、おそらく全国のメガネスキーたちの多くは、森山塔に救われている。ありがとう。

■書誌情報

名作だけあって、版にバリエーションがある。版によってプレミア度が違い、回収絶版になった版は古本で5,000円くらいするが、中身を読むだけなら電子書籍で安く読める。
Kindle版:山本直樹『BLUE』(太田出版、2006年)

「ペギミンH」は再版単行本で読むことができるようだが、どうやら「恋のスーパーパラシューター」は未収録のようだ。
単行本:森山塔『Pegimin H』(Zコミックス)※18禁

「恋のスーパーパラシューター」は選集1に収められているらしい。
単行本:森山塔『森山塔選集(1) 』(Fukkan.com)※18禁

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