槻宮杏「メガネアパート」
白泉社『ララDX』2010年9月号
春瀬ゆいは、眼鏡っ娘、高1。祖父に頼まれてアパートの管理人を務めることになったが、他人との共同生活ができるかどうか不安でたまらない。不安を助長するように、そのアパートに住んでいたのは同学年のメガネ男子3人だった。しかも彼らはメガネを外すと人格が変化する「めがね体質」だったのだ!
メガネ男子三人は、めがね体質がバレたら困るので、あの手この手で眼鏡っ娘を追い出そうとする。しかし眼鏡っ娘は様々な攻撃にもめげず、根性で頑張る。そんな姿勢に、メガネ男子三人の心も徐々に軟化し、眼鏡っ娘と次第に仲が良くなっていく。しかし、メガネ男子三人に恨みを持つ人間が、眼鏡っ娘に目を付けた。チンピラどもが眼鏡っ娘を拉致して三人の秘密を聞き出そうと画策する。悪の手に捕まって、ピンチに陥る眼鏡っ娘。
眼鏡っ娘を捕えたチンピラどもは、「めがね外したら美少女☆」とか、極めて頭の悪いセリフを吐く。そんな馬鹿どもには、当然のように、天誅が降る。なんと眼鏡っ娘は、眼鏡をはずすと強気で無敵な喧嘩無双の暴走人格に変わってしまう、めがね体質だったのだ! 木端微塵に吹っ飛ばされるチンピラども。だから眼鏡をはずしちゃだめだって言っただろう。
眼鏡を外して人格がチェンジするという仕掛けは、この作品の他にもいくつかある。この仕掛けが成立するのは、そもそも眼鏡というものが「かけている=ON」か「外している=OFF」か二者択一で、決して中間形態をとることがないからだ。これを眼鏡の「デジタル性」と呼ぼう。身長とか髪型とか目の色とか、眼鏡以外の属性にはこのデジタル性はない。いくつかのマンガは、この眼鏡のデジタル性を利用して様々なエピソードを作っていく。本作「メガネアパート」では、眼鏡のデジタル性を二重人格とリンクさせて、おもしろい物語に仕立てた。しかし、このデジタル性を女性の美醜と安易にリンクさせたとき、悲劇が起こる。現実には二重人格と眼鏡のデジタル性がリンクすることがあり得ないのと同様、女性の美醜と眼鏡のデジタル性がリンクすることもあり得ない。メガネのデジタル性は、あくまでもその特性を利用してエピソードを作るために有用なものではあっても、眼鏡の現実とはまったく関係がないことを肝に銘じておく必要がある。メガネを外して美人になるのはマンガの中だけであって、現実にはありえない。
それはともかく、この眼鏡のデジタル性が有効に活用されたときに、マンガ史上に画期的な表現「乙女ちっく」が生み出されることとなるが、その事情はまた今後の作品で確認していこう。
■書誌情報
単行本:槻宮杏『メガネアパート』 (花とゆめCOMICS、2011年)に所収。
■広告■ |
■広告■ |