この眼鏡っ娘マンガがすごい!第104回:高遠るい「SCAPE-GOD」

高遠るい「SCAPE-GOD」

メディアワークス『電撃帝王』2005年VOLUME5~11

今回はセカイ系と眼鏡の関係について考えてみよう。
本作は、眼鏡っ娘ヒロインのもとに神(すがたかたちは少女)がやってきたところから話が始まる。

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化け物をやっつけたり、アメリカが世界制覇を狙って案の定返り討ちにあったり、スペックオーバーの偽物が出たりと伝奇ものとしてスカッと読めるし、地球上のあらゆる神話を包括する過剰な設定が笑えるし、細かいギャグとパロディは満載だし、オマケの前田久の解説までもしっかり読ませて、全体としてふつうに娯楽作品として面白いのだけど、とりあえずそれはどうでもいい。問題は、眼鏡だ。

セカイ系は、主人公の生活圏の問題が、社会などの中間項をすっ飛ばして、世界全体の運命と直結するところに特徴がある。しかし単に日常生活を無際限に世界全体に拡大するだけなら荒唐無稽になるだけだが、世界全体の状況を日常思考の変革にフィードバックできたとき、セカイ系としての説得力が出る。世界と生活の間で往還が繰り返され、フィードバックによって互いに状況が変更され、次第に融合していくことでセカイ系作品が成立する。が、この往還を具体的なエピソードで成立させることが、きわめて難しい。成功しているセカイ系はこの具体的なエピソード描写が上手なわけだが、本作では眼鏡っ娘の「いま」を肯定する姿勢がきわどくそれを可能としているように見える。眼鏡っ娘は、自分の生活圏にあるもの全てに対する激しい愛憎の振幅にも関わらず、常に「いま」を肯定する強さを持つ。その眼鏡っ娘の強い意志が最後の最後まで貫徹されることが、この作品の肝だ。だから眼鏡は絶対に割れない。

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世界と日常を往還するのが眼鏡っ娘というのは、作者が意図したかどうかは作中から伺うことはできないが、作品的な必然性を持つ。なぜなら、中間項を持たない眼鏡というアイテムこそが、世界と日常を中間項なしに直結させることの象徴だからだ。本コラムでもしばしば指摘してきたように、眼鏡の現象学的本質は「排中律」にある。眼鏡は「かけている」か「かけていない」かどちらかの値しか持たず、中間値をとることが論理的にあり得ない。このような眼鏡の排中律という現象学的本質を用いて様々なマンガが様々なエピソードを描いてきたことは、すでに指摘してきたとおりである(たとえば「眼鏡を外したら○○」なんてのは、排中律が適用されたほんの一例に過ぎない)。世界と日常の間に中間値を持たないセカイ系という構造の中に、排中律を本質とする眼鏡っ娘が企投されるという「出来事」が、本作の原構造なのだ。

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だから、本作では眼鏡は割れない。どんなに激しいバトルシーンだろうが、眼鏡は割れない。注意深く読んでみると分かるのだが、眼鏡っ娘が激しい返り血を浴びるシーンで、顔面が血まみれになっているシーンで、眼鏡には一滴も血がついていない。作者が意図したかどうかはともかく、世界と生活を往還するものの象徴としての眼鏡が表現されている。世界と日常の往還的融合がセカイ系だとすれば、眼鏡と娘の往還的融合こそが眼鏡っ娘だ(だから単に眼鏡をかけただけの女を眼鏡っ娘とは呼ばない、決して)。この作品を通じて眼鏡に対する現象学的還元を遂行したときに、牧原綠が眼鏡っ娘であることの意味が見えてくるのだ。

ところで、この眼鏡っ娘、百合。

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いやまあ、百合というよりは、かなりガチ。アイドルビデオを見ながら女子にあるまじき衝撃的なマスターベーションシーンをする他に類を見ないシーンもあって、驚愕する。すげえな。

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■書誌情報

同名単行本全1巻。高遠るいの作品の中では、あまり読まれていないほうなのかな。せっかく眼鏡っ娘が主人公なので、広く読まれてほしい作品だ。とりあえず私は「著者による評論の操作」の試みに乗ってみた。

単行本:高遠るい『ScapeーGod』電撃コミックス、2007年

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第32回:曜名「彼女のすてきな変身」

曜名+原作:モーリーン・チャイルド「彼女のすてきな変身」

ハーレクイーンコミックス単行本描きおろし2005年

032_01ハーレクインの単行本マンガ描きおろしシリーズには、そこそこ眼鏡っ娘ヒロインが登場する。ただし残念ながら、さすが天下のハーレクインだけあって、眼鏡を外して超大金持ちと結婚して幸せになるなどといったマヌケな展開の作品が多く、私も何度も煮え湯を飲まされたものだった。本作も途中までは嫌な臭いが漂っていたように感じていたのだが、それは私の嗅覚が過去のハーレクインによって鈍っていただけだった。本作は、まことに素晴らしかった。眼鏡っ娘の恋愛相手が、完璧なメガネスキーだったのだ!

032_02ヒロインの眼鏡っ娘トレイシーは、プログラマーとしてバリバリのキャリアを積んでいる。が、過去のトラウマのせいで恋愛とは無縁な生活を送っていた。そんなとき、自動車で3日もかかる遠く離れた故郷へ帰らなくてはならなくなるが、迎えに来たのはトレイシーの初恋相手のリックだった。そしてそのリックこそが、我々の同志メガネスキーだったのだ!
故郷へ向けて、3日間のドライブを続ける二人。最初はリックの目を気にして眼鏡を外していたトレイシーだったが、3日目にコンタクトが合わなくなって眼鏡をかける。その素晴らしい眼鏡姿に、リックは運転中にも関わらず何度もチラ見をしてしまう。トレイシーのほうは「やっぱりメガネが変!?」と思ってしまうが、リックのほうは「メガネが彼女の可憐さを際立たせているように見える」と、的確な観察をしている。リックの言うとおり、メガネは女性の可憐さを何倍にも際立たせるのだ。正義はリックの手の中にある。
そして故郷に戻った二人は、めでたくゴールイン。トレイシーのコンプレックスを打ち砕き、本当の自分を取り戻させたのは、メガネスキーを貫いたリックの真摯な姿勢だった。トレイシーを射止めたリックが心の中で、こう呟く。

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「僕はメガネの君のが好みなんだけど、これは少々マニアックかな?」。いやいや、大丈夫。マニアックじゃなくて、人間として当たり前の感情だぞ。おめでとうリック!そして、ありがとうリック! 「彼女のすてきな変身」というタイトルでヒロインが眼鏡っ娘だと嫌な予感しかしなかったのだが、完全にいい意味で裏切られたぜ。

■書誌情報

単行本:曜名+モーリーン・チャイルド『彼女のすてきな変身』( ハーレクインシリーズ、2005年)全一巻。

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第18回:たもりただぢ「烏丸学園ガンスモーキーズ」

たもりただぢ「烏丸学園ガンスモーキーズ」

エンターブレイン『TECH GIAN』2005年1月号~2006年8月号

この作品、絵を一瞬見るだけで、眼鏡っ娘マンガだ!とすぐにわかる。誰でもわかる。私は仕事上の都合もあって『TECH GIAN』誌を毎月読んでおり、本作は連載開始時から見ているのだが、初めて見た時は、話の内容に入る前に何度も何度も繰り返し絵をガン見してしまった。激しく魂を揺さぶられる衝撃だった。だって、みんなメガネ(DAIGO流ならMMとなるところ)だったのだ!

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いちおう眼鏡じゃないキャラも数人出てくるのだが、とにかく男も女も眼鏡キャラに満ち溢れた作品だ。主人公も、ヒロインも、頼りになる主人公の味方も、ラスボスも、みんな眼鏡なのだ。そして描かれるキャラクターたちには、眼鏡だからといって何かしらのバイアスがかかったような性格付けは一切なされない。眼鏡だから、眼鏡。そしてガン×ソードの学園アクション。画面の大半が眼鏡で覆い尽くされるアクションマンガは、他に見ることはできないだろう。そして、見どころはアクションだけでなく、眼鏡たちの成長に読後感が爽やかほっこり。全2巻を読み終わった後に、カバーを外して、また眼鏡にほっこり。

ところで、絵柄がたもりただぢに酷似していて、妹?ということになっている路杏るうも、メガネくん×眼鏡っ娘(というか、女装ショタ眼鏡やふたなり眼鏡など、トランスジェンダーで眼鏡×眼鏡)な強烈な作品を残している。一般的にはアブノーマルな設定に注目が集まっているが、その前にまずは眼鏡へのこだわりに注目してほしい作品だ。

■書誌情報

単行本:たもりただぢ『烏丸学園ガンスモーキーズ』全2巻完結(エンターブレイン、2007年) amazonだと中古でしか手に入らないのかな?

単行本:路杏るう『Girl to love』 (メガストア、2002年) 18禁。大判サイズのため、広い画面で綺麗な絵が見られて嬉しい。

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第3回:川添真理子+甲斐透「遊星戦姫グリーンエンジェル」

川添真理子+甲斐透「遊星戦姫グリーンエンジェル」

新書館『ウンポコ』2005年vol.1~vol.6

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「歌う委員長」当日ということで、前回に続いて歌う眼鏡っ娘のご紹介。ただし残念ながら超弩級のオンチだがな。

003_02s辺境惑星から就職活動で銀河系最高のテーマパークにやってきた、ヒロイン眼鏡っ娘のミント・アップル。おさげにまんまる眼鏡が超かわいい。普通の地味な仕事に就くつもりだったのに、なぜか遊園地で戦隊ヒーローもののアトラクションをやらされることに。しかもそれはただのアトラクションではなく、本当に悪の組織が襲ってくるマジな戦闘だった! 戦え眼鏡っ娘! しかし何の取柄もないどころか、ドジでおっちょこちょいのミントがまともに戦えるはずもなかった……としたら話が成り立たない。ミントには誰にも真似をすることができない、彼女だけの必殺技があったのだ。それが「歌」だった。ミントが歌うと、機械が破壊され、人間も倒れる。彼女の声は超弩級オンチの破壊兵器だったのだ!! 凶悪な最終兵器となった歌声が悪の組織を壊滅させる。歌え!壊せ!破壊せよ!

ま、ぼえーな歌はともかく、眼鏡っ娘が超かわいい。正統派少女マンガ風の大きなまんまる眼鏡がとても心地いい。表情も豊かで、ずっと見ていて飽きない眼鏡っ娘。多少オンチなくらい、どってことないぜ!
003_03s川添真理子の描く眼鏡っ娘はとてもキュートで、たとえば「僕たちサンマ探偵団」(Wings’98年9月号)に登場する委員長眼鏡っ娘は、腹黒くて素敵だ。←な感じ。

ちなみに「歌う委員長」に出演する眼鏡っ娘たちは、もちろんオンチではないし、たぶん腹黒くもないぞ!!

■書誌情報

単行本:川添真理子+甲斐透『遊星戦姫グリーンエンジェル』(新書館、2007年)
「僕たちサンマ探偵団」は川添真理子+中村幸子『ウロボロスの指輪』に所収。

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