この眼鏡っ娘マンガがすごい!第108回:まつもとあやか「BABY BABY BABY!!」

まつもとあやか「BABY BABY BABY!!」

集英社『クッキー』2009年6月号

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こんなん、表紙見たら買うだろぉ。長くて黒い艶やかな髪の毛で輪郭がきっちり区切られた端正な顔立ちに、シャープな眼鏡。目力の強い、鮮烈なクールビューティ。一瞬で恋に落ちるわ。
ということで、いつも女のことしか考えていないオツムの軽いバカ男が、眼鏡っ娘に一目惚れするお話。眼鏡っ娘は、男が語っていた「理想のタイプ」とは全く違うのだが、こんなん見たら惚れてまうのも仕方がない。ということで告白するが、もちろん一瞬でふられる。

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適当にあしらう感じもクールでかっこいいねえ。ますます惚れてまうやろ。
が、男はあきらめきれず、美術室で絵を描いている眼鏡っ娘のところにおしかける。まんまと絵のモデルになることに成功して、ちょっとずつ距離を縮めていくのだが。実は眼鏡っ娘は美術部顧問の先生のことが好きだったのだよ。

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いい表情だなあ。

さて、まあ、なんとなくの印象なんだけど、本作に限らずマンガで描かれる眼鏡っ娘って、怖い顔の男とか不良気味のオツム軽い男とくっついちゃう傾向にあるような気がする。個人的には眼鏡っ娘には真面目な男とつきあって幸せになってほしいので、軽くていい加減で浮気を繰り返しそうなヤンキーといい感じになるのはもったいなすぎて悔しい気がするんだけれども。まあ、そういう物語が求められる何らかの世間的な傾向があるということだろうから、私が悔しがっても仕方がない。むしろ、きちんと客観的に分析しておく必要がある事案として理解しておくべきだろう。
そんなわけで、この物語でも、軽くていい加減な男と眼鏡っ娘がいい感じになっていくんだな。まあ、眼鏡っ娘が幸せになってくれるんなら、応援するしかないがな!

さて、ところで。けっこうびっくりしたのが、同時収録の別作品「とらとマシマロ!」でも眼鏡っ娘がヒロインになっているのだが、これが「BABY BABY BABY!!」のクールビューティ眼鏡とは真反対のちんちくりん眼鏡っ娘ということだ。

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同じ作者が描いた眼鏡っ娘とは思えないほど、印象に落差がある。ちんちくりん三つ編み+まんまる眼鏡の眼鏡っ娘。で、こちらも恋の相手も、数千人の暴走族を一人で仕切っていたという伝説を持つ極めてマッドマックスな男だったりする。ホームレスのジジィや鼻ピアスでタトゥーまみれの極悪ヤンキーが角材を振り回しながら画面を埋め尽くしたりして、少女マンガとして見るとちょっと不思議な作品に仕上がっているが、小動物のような眼鏡っ娘はすこぶる可愛い。

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というわけで、一冊の単行本の中にクールビューティ眼鏡とちんちくりん眼鏡が同居していて、その落差がけっこう心地いい。世間的にはどっちのタイプの眼鏡っ娘が人気あるのかのう?

■書誌情報

「BABY BABY BABY!!」は36頁の短編。「とらとマシマロ!」は32頁の短編。どちらも単行本『BABY BABY BABY!!』に収録されていて、電子書籍でも読める。

Kindle版:まつもとあやか『BABY BABY BABY!!』集英社、2011年

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第88回:藤木俊「はじめてのあく」

藤木俊「はじめてのあく」

小学館『週刊少年サンデー』2009年第6号~2012年第25号

眼鏡っ娘ヒロインが単行本16巻に渡って躍動する、読んでて幸せになる作品。他にも魅力的な眼鏡っ娘が何人も登場して、ありがとうありがとう。ああ、こんな学園生活を送りたかった! 特に赤城先輩の生き様に痺れる憧れる!

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眼鏡っ娘ヒロイン「渡キョーコ」のファンクラブの会長を務める赤城先輩が、脇役なんだけど、本当に男前で存在感ありすぎ。最初に出てきたときはこんなに魅力的なキャラに成長するとは思わなかった。自分自身の気持ちに決して嘘をつかない、常に一直線の姿勢がカッコよすぎる。本作の登場人物はみんな真っ直ぐで、だから読んでて清々しい気持ちになる。

088_02ヒロイン渡キョーコがかわいいのはもちろんとして、脇役眼鏡っ娘たちも魅力的だ。まず、主人公阿久野ジローの姉アヤさんが素晴らしい。悪の組織の幹部でアラサーでブラコンで酒乱だけど、かわいすぎる。なかでも特に素晴らしいのは、温泉に入るときも眼鏡を外さないところだ。

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キョーコは残念ながらお風呂シーンでは常に眼鏡を外しているのだが、さすがアヤ姉さんが分かってらっしゃるのは年の功か。結婚に至るきっかけが「Dr.スランプ」を彷彿とさせるのも、さすが眼鏡っ娘。おめでとうおめでとう。

そして緑谷の妹が、また眼鏡っ娘で、かわいい。初登場シーンでは一コマちょろっと出ただけだったので、ここまで存在感が上がるとは思わなかった。もうメロメロだ。

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ああ、もう、かわいいなあ!
アヤ姉がお姉さん眼鏡で、緑谷妹が妹眼鏡ということで、姉属性にも妹属性にも全方位眼鏡対応の贅沢な布陣に感謝するしかない。

そしてもちろんメインヒロイン渡キョーコがかわいいのは言うまでもない。世間的には「ツンデレ」と呼ぶかもしれないが、そういう言葉ができる以前から語り継がれてきたサンデー伝統「居候ラブコメ」の王道ど真ん中を行くキャラが、かわいくないわけがない。しかも眼鏡がブレないんだよ。

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ああ、もう、愛おしいなあ。主人公阿久野ジローの天然ぶりに翻弄されつつも、徐々にジローを悩殺していく過程が楽しすぎる。ハーレムものが陥りがちな受け身でかわいいだけのキャラに終わらず、主体的に行動するところがいいんだろうな。

そんなわけで、キャラ構造的にはハーレムものでありながら、実は初々しい青春の熱さと清々しさがダイレクトに伝わってくる、定期的に読み直したくなる作品だ。

 

■書誌情報

088_06単行本全16巻。少女マンガと違って、マンガ喫茶等でも読みやすいかも。ちなみに赤城先輩を見ると競輪戦士吉井正光(眼鏡男子コンテスト第2回グランプリ受賞者)を思い出すのは、私だけか。

単行本セット:藤木俊『はじめてのあく』全16巻(少年サンデーコミックス)

 

 

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第75回:環望+榊原瑞紀「ミス・マーベリックにはさからうな」

原作:環望+漫画:榊原瑞紀「ミス・マーベリックにはさからうな」

エモーション『YOMBAN』2009年2~8月号

075_02前回に引き続き、本作も戦う変身ヒロインの眼鏡っ娘作品だ。そして本格アメコミ作家として活躍していた著者らしく、きっちりスーパーマン・オマージュになっている。
他の作品と異なる大きな特徴は、変身ヒロイン眼鏡っ娘が新米の女教師という点にある。女教師だから眼鏡、そしてスーパーマン・オマージュだから眼鏡。残念ながらスーパーマン・オマージュなので変身後は眼鏡が外れてしまうのだが、女教師モードでは素晴らしい眼鏡だ。
そして倒すべき悪が、実はクラスの教え子3人組。オテンバ3人組は、科学の力を悪用して、街中に迷惑を振りまきながら大騒ぎ。このうち一人が眼鏡っ娘で、嬉しい。そして学校では教え子のイタズラに悩まされている女教師だが、変身した後は3人組をちゃちゃっと懲らしめるのだった。
しかし本当に倒すべき相手は、他の所にいた。めちゃめちゃ盛り上がる展開。生徒3人組のピンチに現れ、「私の生徒に手を出すな」と啖呵を切る女教師が、かっこいい。まあ、欲を言えば、眼鏡をかけてこのセリフを言ってほしかったけどね。

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075_01ところで「女教師だから眼鏡」と書いたわけだが。厳密に考えていくと、真実がもう少し興味深く見えてくる。1960年から70年代初頭のマンガ作品を見ると、女教師が眼鏡をかけているのはいいとして、他に看護婦もよく眼鏡をかけていることに気がつく。そして当時はまだ女性の社会進出が進んでおらず、女性が働く場所は限られていた。実は「女教師」と「看護婦」とは、当時の女性が社会進出する際の限られた選択肢だった。だから、「看護婦」がよく眼鏡をかけているという事実を踏まえれば、「女教師だから眼鏡をかけている」というよりは、「職業婦人だから眼鏡をかけている」といったほうが正確だということが分かる。アメリカの「スーパーガール」も、変身前はOLで眼鏡。つまり眼鏡は「教師」に限らず「職業婦人」全体の目印なのだ。となると、眼鏡を外そうとする圧力の意味も見えやすくなる。そこには、女性の社会進出を阻止し、全ての女性を娼婦化しようとするマッチョ的無意識が働いているのだ。

しかしもちろん本作は、そういったマッチョ的無意識とは無縁だ。本作は変身ヒロイン物語であると同時に、眼鏡っ娘が教師としての自覚と自信を強めていく成長物語でもある。教師として成長した眼鏡っ娘が眼鏡を外す理由は、何もない。

■書誌情報

電子書籍で読むことができる。

Kindle版:環望+榊原瑞紀『ミス・マーベリックにはさからうな』(Emotion Comics、2011年)

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第33回:須河篤志「つるた部長はいつも寝不足」

須河篤志「つるた部長はいつも寝不足」

メディアファクトリー『コミックフラッパー』2009年12月号~11年8月号

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眼鏡っ娘高校生の鶴田恵ちゃんは、美術部部長。しかし絵についてはシロウト同然。後輩なのに絵が上手い瀬戸くんに、仄かな恋心を抱いていたりする。そんな眼鏡っ娘に、ものすごい性癖があった。いちどエッチな妄想が始まると、止まらなくなってしまうのだ。

033_04ということで、本作のみどころは、まず眼鏡っ娘の暴走する妄想のエロさだ。毎回毎回、よくもそんなところからスイッチが入るなあというところから妄想に突入し、アクセルべた踏みノンストップで妄想エスカレート。そのくせに現実では勇気が出ずに、瀬戸くんとまともに話もできなかったりする。

ということで、本作のさらなる見どころは、ど直球の青春ラブコメエピソードだ。つるた部長の純粋さも、瀬戸くんの青くささも、お兄さんの上から目線も、美術部員たちの真っ直ぐな姿勢も、キラキラとまぶしい。「こんな高校生活を送りたかった!」と思ってしまう甘酸っぱい青春エピソードが満載で、ハレンチな妄想でいっぱいの微エロマンガなのに、いやそれだからこそ、読後感はとても清々しい。下品にならないエロという点から言えば、間違いなく稀有な作品だ。

が、本作の最大の見どころは、そこにはない。本作最大の価値は、眼鏡の真実を見せつけたエピソードにある。つるた部長は、眼鏡をしているときはカワイイのに、眼鏡を外すと超恐ろしい顔になってしまうのだ! メガネなしの顔は本当に恐ろしいので、ぜひ自分の目で確かめていただきたい。このとき眼鏡をはずした部長の恐ろしい素顔を見てしまった瀬戸くんのリアクションが素晴らしかった。

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「とりあえずメガネを…メガネをかけていただけますか……」。いやほんとうに、眼鏡を外して女性がかわいくなるなんて物理的にありえないことは、しっかり認識されるべきだ。間違った認識を持っていた瀬戸くんは、自分自身で恐怖を味わって、ようやく世界の真実を知ることになった。全世界の人々は、このマンガを読んで、メガネを外した女性は恐ろしい顔になることをしっかりと認識し、眼鏡っ娘からメガネを外そうなどという愚かな行為は、ぜひやめていただきたい。

■書誌情報

033_03新刊でも手に入るし、電子書籍で読むこともできる。つるた部長がメガネを外して恐ろしい顔になるのは、第2巻に収録の第7話。

Kindle版:須河篤志『つるた部長はいつも寝不足』第1巻 (コミックフラッパー、2010年) 単行本は全3巻。

いい味を出している保健室の先生も眼鏡設定らしいけれど、本編ではオデコめがねしかなかったなあ。名前も最後まで結局わからなかったや。

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第8回:池美留奈「ニルの恋☆魔法陣」

池美留奈「ニルの恋☆魔法陣」

白泉社『花とゆめ』2009年12号

前回は約35年前のソバカス眼鏡っ娘マンガを見たが、センスが新しくなった平成の世にもソバカス眼鏡っ娘の伝統はしっかりと生きている。
主人公のニル・ギリスは、ちんちくりんのソバカス眼鏡っ娘。魔法学院に通って魔法を勉強している11歳。上級生に暴力を振るわれそうになったとき、さっそうと現れて助けてくれたのがクーロン先輩。それ以来、ニルちゃんはクーロン先輩に密かな恋心を抱き、よく放課後に二人で会うようになる。ニルちゃんは眼鏡の見た目のせいで「ガリベン」などと勘違いされているのだが、クーロン先輩も見た目が非常に恐ろしく、先生からも不良だと誤解を受けて日ごろからひどい扱いを受けている。しかしニルちゃんは他人を見た目で判断することがなく、普通にクーロン先輩と接するので、クーロン先輩も眼鏡っ娘とお話しするのがとても楽しかったりする。

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そんな折、学園でダンスパーティが開かれることとなった。大好きなクーロン先輩をダンスに誘いたい眼鏡っ娘だったが、突然現れた超美人に圧倒されて、先輩とまともに話をすることもできない。ちんちくりんでソバカスでメガネな自分に対するコンプレックスは強まるばかりで、放課後も先輩を避けるようになってしまう。

008_02そこで魔法の出番だ。眼鏡っ娘は魔法で美人に大変身する。身長が伸び、胸がでかくなり、ソバカスが消え、眼鏡も外れる。こうして美人になったら自信を持って先輩をダンスパーティに誘うことができる。と思ったけれども、中身が変わったわけではないので、やっぱり先輩の前から逃げ出してしまう。そんなニルを追いかけてくるクーロン先輩。どんなに見た目の姿が変わっても、人を見た目で判断しないクーロン先輩には、それが眼鏡っ娘だと分かったのだ。勇気を振り絞ってダンスに誘うニルに、クーロン先輩は優しく応えるのだった。めでたしめでたし。
そしてこの作品がとびきり上等なのは、エピローグの描写にある。ニルが大人になって美しく成長した姿が描かれるのだが、背が伸びてソバカスがなくなり胸が大きくなっているのに対し、眼鏡はしっかりとかけたままなのだ!やっほう! 背やソバカスや胸はニルにとってどうでもいい属性にすぎないが、眼鏡は本質だったということの象徴と言える。

この作品は、かなり純粋な「乙女チック」構造を示している。女の子の方はメガネな自分にコンプレックスを持っているけれど、できる男の方はそんな外見なんて全然気にしていないというか、少女自身をまるごと受け止めるという物語構成。絵柄や道具立ては昭和と平成では全く異なるが、乙女ちっく構造は今もしっかり少女マンガに生きている。

まあ、我々にとっては、外見に眼鏡があれば必要十分なんだがな!

■書誌情報

単行本:池美留奈『キスに従属』 (花とゆめCOMICS、2010年)に所収。

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