この眼鏡っ娘マンガがすごい!第147回:宮沢由貴「双子座迷宮」

宮沢由貴「双子座迷宮」

小学館『デラックス別冊少女コミック』1996年冬の号

率直に言えば、平凡な作品である。だが、それが尊い。この尊さが分からない輩には、小一時間ほど説教を喰らわせたい。

主人公の亜衣は、眼鏡っ娘の高校生。双子の姉なのだが、妹の麻衣にはあらゆるスペックで劣っている。亜衣は眼鏡をかけているが、運動だけでなく、勉強も苦手なのだ。しかもドジっ娘。加えて、ソバカスで三つ編み。ありがとうございます。
亜衣は、そんなダメダメな自分の立場を双子座になぞらえて、カストルと呼んでいる。同じ双子座でも、ポルックスは一等星で、カストルは二等星。それがまるで麻衣と自分の差を示しているように思えるからだ。

そんな亜衣は、星が大好き。好きすぎて、プラネタリウムに通っている。その館長の息子が、本作のヒーロー、昴くん。少女マンガのヒーローだけあって、格好いいことを言う。彼によれば、カストルもポルックスも恒星で、「自分の力で耀いている天体」ということではまったく変わりがない。それと同じように、「亜衣ちゃんにも麻衣とは違った別の良さがあると思う」と言う。この言葉が、コンプレックスで弱っていた亜衣の心に深く染みわたる。

そんなイケメン昴くん、実はかなりのモテ男で、ガールフレンドがたくさん存在していた。そして、ちょっとした行き違いから、亜衣はただ昴にからかわれていただけだと勘違いしてしまう。落ち込む亜衣。
だが、麻衣の手助けもあって、亜衣は昴くんの言葉を思い出す。自分は自分なりに耀けばいいんだと。

亜衣は昴くんを信じる。走り出した亜衣を双子座流星群が導いて、昴くんのところに連れて行ってくれるのだった。うーん、ハッピーエンド。

まあ、大雑把にまとめれば、コンプレックスを持っていた主人公が、並み居る美人たちを追い越して、いい男に「そんな君が好き」と言われるストーリーだ。王道と言えば、王道。平凡と言えば、平凡。だが、それがいい。これでなくてはいけない。いつも道子みたいでは、疲れてしまう。劣等感を持っていた眼鏡っ娘が、ふつうに眼鏡のままふつうに幸せになる。そんなふつうのマンガが存在してくれないと、世の中は成り立たない。眼鏡を外して美人だなんてことは、起こるはずがないのだから。この話のように全ての眼鏡っ娘が眼鏡のまま幸せになってくれることを願うのだった。

書誌情報

本作は40頁の短編よみきり。単行本『真夜中のアダム 宮沢由貴ラブストーリーズ3』に所収。
きめ細かい作画と安定の構成、丁寧な登場人物の心情描写で、安心して読めると思いきや、他の作品はなかなかの鬱展開だったりするから油断ならない。

【単行本】宮沢由貴『真夜中のアダム 宮沢由貴ラブストーリーズ3』小学館、1997年

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