この眼鏡っ娘マンガがすごい!第47回:田沼雄一郎「少女エゴエゴ魔法屋稼業」

田沼雄一郎「少女エゴエゴ魔法屋稼業」

白夜書房『ホットミルク』1988年

作品そのものに言及する前に、雑誌『ホットミルク』に関する客観的なデータを確認したい。この作品の持つ意味が明らかになる。

047_011986年から1998年の『ホットミルク』に掲載された投稿イラスト(総数は約18000枚)のうち、眼鏡っ娘がどれだけ描かれていたかを比率で算出した。結果を表とグラフにまとめたものを右に掲げておく。
まず1988年に大きな山があることがわかる。これは、1988年7月号の投稿イラストのお題として「めがねをかけた少女、実は眼鏡をはずすとすっごくかわいい」が提示されたことによる。この反動的なお題に対して、投稿者は「かわいい娘は眼鏡をかけていてもかわいい」という主張で応じた。素晴らしい。1988年の段階で、一定の眼鏡勢力が形成されていたことが分かる。
047_02その勢いを受けて、同年9月号の「早瀬たくみのうるうるしちゃった」(読者投稿コーナー)の募集要項において、「メガネの女の子好き?!」というお題が示された。同年10月号の投稿では、「メガネっ娘」という単語を2例、「めがねっ娘」という単語を2例、確認することができる。確実に眼鏡勢力が定着している。
この1988年に『ホットミルク』に登場したのが、田沼雄一郎「少女エゴエゴ魔法屋稼業」という眼鏡っ娘作品であった。この作品が眼鏡勢力の覚醒に何らかのかかわりを持っていることがうかがえるだろう。
ちなみに1997年の大躍進は、『乳居者募集』というイラストコーナーの担当が無類の眼鏡っ娘好きになったことによるものだが、この話はしかるべき機会に。
『ホットミルク』は他のエロマンガ雑誌と比較しても、読者投稿イラストの眼鏡イラストは顕著に多かった。それには『ホットミルク』ならではの理由がある。1980年代後半の眼鏡っ娘イラストは、実は同誌名物編集者O子氏の似顔絵が多かったのだ。このO子氏のイラストをきっかけにして眼鏡っ娘マンガで商業誌デビューする作家もいたくらいで、彼女が果たした眼鏡界への貢献は、実はものすごいものがある可能性がある。前回紹介した「ファントムシューター・イオ」も、O子氏がいる『ホットミルク』だったからこそヒロインが眼鏡だった可能性すらあるのではないか。

さて、前置きの方が長くて恐縮ではあるが、本題である。

※以下、性的な話が多いので、苦手な人は回避してください。

047_03

まあ、とにかくエロかった。ほんともうエロエロでしたわー。
眼鏡っ娘が、悪いやつらにとことん酷い目に遭わされるんですわ。もう、とにかく酷い。ぐちゃぐちゃのドロドロ。げちょげちょのエロエロ。そして最後にトドメを刺されようとしたとき、眼鏡っ娘が魔法の力で大変身。必殺仕事人よろしく、悪いやつらが処刑されて、スカッとして終わる。しかしこの話、単なる勧善懲悪で終わらないところがすごい。エロいうえに、読ませる。
そんなわけで、第二回の「メガネっ娘居酒屋委員長」だったと思うけど、出演者が最も影響を受けた眼鏡っ娘マンガを持ち寄るという企画の時に、平野耕太が持ってきたのがコレだった。そうそう、これこれ、眼鏡っ娘がべろんちょのぐろんちょでハァハァですわ!ってことで、激しく同意したのだった。

■書誌情報

単行本『PRINCESS OF DARKNESS』に全編所収。でもやっぱり「少女エゴエゴ」って呼んじゃうなあ。今は新装版が手に入りやすいが、値段は古本としても下がっていない。やはりマニアの間では評価が高いようだ。
単行本:田沼雄一郎『プリンセス・オブ・ダークネス』(ホットミルクコミックス、改訂増補新装版1996年)

そして1988年のエゴエゴの後、同年9月号に銀仮面「TWO IN ONE」でデビュー、翌89年1月号にるりあ046「ファントムシューター・イオ」、89年3月号に田沼「続エゴエゴ」、89年6月号には巻頭から3連発で眼鏡っ娘マンガ魔北葵「MAKING」、新貝田鉄野郎「調教師びんびん物語」、泉拓樹「OL戦記悶絶変」)が掲載される。天竺浪人も良質な眼鏡っ娘を量産する。眼鏡っ娘躍進への大きな基盤が『ホットミルク』に作られたのであった。

■広告■


■広告■

この眼鏡っ娘マンガがすごい!第44回:森生まさみ「城南高校生徒会シリーズ」

森生まさみ「城南高校生徒会シリーズ」

白泉社『ララ』1988年~91年

044_02森生まさみの描く眼鏡っ娘は、男前だ。「城南高校生徒会シリーズ」のヒロイン(ヒーロー?)は、生徒会長を務める日下部圭子。恋愛沙汰がメインの話ではなく、学園で起こる様々なトラブルを眼鏡っ娘の知恵と勇気で解決する話だ。学園ドラマとして普通におもしろく、少女マンガが苦手な男子でも比較的すんなりと入っていける作品だと思う。

ストーリーがおもしろく、眼鏡っ娘をはじめとするキャラクターが活き活きと魅力的なのはともかくとして、眼鏡的に大注目したいのは、眼鏡の描き方だ。生徒会長がかけている眼鏡は黒縁セルフレームなのだが、その描写が非常に丁寧で見どころが多いのだ。特に卓越したセンスを感じるのは、ツルの描写である。実際にセルフレームを持っている人は当然知っていることなのだが、眼鏡のツルは単調な直線ではなく、なまめかしい曲線の組み合わせでできている。しかし残念ながら絵でこの曲線を丁寧に表現する作品はあまり多くない。森生まさみが描く眼鏡は、このツルの曲線がしっかりセクシーに再現されている。
注意したいのは、これが極めて高い技術に支えられているということである。そもそもツルをしっかり描くためには、その前提として眼と耳のデッサンが整っていなければならない。実はそれが非常に難しい。マンガで眼鏡のツルがあまり描かれないのは、マンガ家があえて描かないのではなく、実はデッサン上の問題で「描けない」のである。森生まさみは、この技術上の問題をあっさりとクリアしているからこそ、そのうえで眼鏡のツルの曲線をしっかりと描けるのだ。

そして下の引用図を確認していただきたい。ここまで丁寧に眼鏡のツルを描写した絵には、滅多なことでは遭遇しない。

044_03

実に感動的な描写だ。眼鏡のツル自体が描かれることが少ないマンガ界にあって、ここまで丁寧に眼鏡を描写してくれる。本当にありがたい。会長がモテるのも、当たり前といえよう。

 

■書誌情報

044_01「城南高校生徒会シリーズ」は、単行本『生徒全員に告ぐ!』と『ヒロイズム前線』の全2巻。単行本は絶版で古本で手に入れるしかないが、人気があって大量に出回っているので手に入りやすい。文庫版を電子書籍で読むこともできる。

森生まさみには、他にも素晴らしい眼鏡っ娘作品が多い。ありがたい作家だ。

Kindle版:森生まさみ『生徒全員に告ぐ!』1巻(白泉社文庫)

Kindle版:森生まさみ『生徒全員に告ぐ!』2巻(白泉社文庫)

単行本:森生まさみ『生徒全員に告ぐ!』(花とゆめCOMICS―城南高校生徒会シリーズ、1991年)

■広告■


■広告■

この眼鏡っ娘マンガがすごい!第41回:あろひろし「若奥さまのア・ブ・ナ・イ趣味」

あろひろし「若奥さまのア・ブ・ナ・イ趣味」

徳間書店『ヤングキャプテン』1988年1~3号

※以下、性的な話題を多く含むので、苦手な人は回避してください。

041_01前回の「マッド彩子」に引き続き、狂科学者の眼鏡っ娘マンガだ。

眼鏡っ娘の美衣加は、人妻マッド・サイエンティスト。手乗りのブラックホールを開発したり、夫のクローンの煮付けを作ったり、出来立て弁当を届けるために空間転移装置を作ったりと、毎日忙しい。その中でも驚天動地の発明は、自分の体を上半身と下半身に分割してしまう装置だ。なぜこんな装置を発明したかというと、美衣加はアイデアが閃くとすべてを放り出して発明に没頭してしまうのだが、それがセックスをしている最中だったら、夫を生殺しで放置してしまうことになる。そこで、自分が発明に取り組んでいる最中にも夫がフィニッシュできるように、上半身と下半身を分離させたのだった。夫が下半身だけの美衣加とズコズコやるシーンもトホホだが、膣痙攣のエピソードはマヌケ極まって衝撃だ。

041_02そんな美衣加が実は10歳だったことが第3話で明らかになる。美衣加の母もマッドサイエンティストで、なんと自分が開発した成長促進剤を実の娘で人体実験していたのだった。成長促進剤で大きくなった美衣加は、見た目は大人だが、実年齢は10歳であり、第3話で初潮を迎えることとなった。美衣加は初潮前にセックスしていたのだった。うーん、すごい。こんな話は他に見たことはない。青少年健全育成条例では、こういう例をどう判断するのだろうか??

041_03単行本には「それ行け!奥秩父研究所」も収録されている。こちらのヒロイン移木杉代もマッド・サイエンティスト。狂科学者らしく世界征服を志し、シャレにならない発明で世界をあと一歩で破滅させるところまで追い込む。とんでもない非常識なキャラだけど、だがそこがいい。こんな突拍子もないキャラクターは、あろひろしにしか描けない。

実は、ありそうであまり実例がないのが、眼鏡っ娘のマッド・サイエンティストだ。おそらく、マッド・サイエンティストをきちんと描くこと自体がそうとう難しく、大方は、アイデアを思いついても描写できないまま断念せざるをえないのだと思われる。本作の眼鏡っ娘は、あろひろしの実力なくしては生まれえなかったと言えよう。

あろひろしと聞いてすぐに思い出してしまうのは、80年代中期のコミケカタログのサークルカットだ。現在のコミケカタログでは、サークルカットをまたいで一連の絵にすることは禁止されている。実際に同じサークルが2スペース並んでいる場合でも、サークルカットは別々に描かなくてはならない。ところがそのルールは80年代半ばには存在しておらず、あろひろしのサークル「スタヂオぱらのい屋」は6カット連続で、つまり1行まるまる一繋ぎのイラスト(例の自画像のワニだが)を描いていたりする。現在の常識からは想像もできないし、当時でも他に例はほとんどなく、独創性溢れる試みだっただろうと思う。(逆に言えば、現在のサークルカットで連続イラストが禁止されているのは、ひょっとしたら、あろひろしのせいかもしれない?)。

眼鏡に関していえば、『優&魅衣』も歴史に記憶されるべき作品だろう。主人公の優はメガネ君だが、眼鏡を外すと人格が一変する。「眼鏡の不連続性」を「人格の不連続性」とリンクさせたアイデアだ。優のお姉さんも普段は厳格な眼鏡っ娘だが、眼鏡を外すと人格が一変して性欲が暴走する。この眼鏡の「不連続性」は、眼鏡の魅力を解き明かす上で極めて重要な意義を持つ(バタイユ的な意味で)ので、様々な作品を通じておいおい考えていくことになるだろう。

ただ一つ残念なのは、中期の代表作「ふたば君チェンジ」の眼鏡っ娘、酒仙洞音霧ちゃんが眼鏡を外して美人になるどころか、それが「パターン」だと描写してしまったことだ。眼鏡を外して美人だなどと世界の摂理を裏切った時点で切腹ものだが、さらにそれを「パターン」だと表現してしまったのは、返す返すも残念だ。それが起承転結の「起承」にすぎない不良品であることは、我々が繰り返し主張してきたところである。これほど独創性に秀でたマンガ家あろひろしにして、眼鏡神話(眼鏡を外して美人になるというウソ)の呪縛に囚われているとは、作家を責めるよりは、眼鏡神話が人々の心の闇につけこむ汚さを肝に銘じるべきということだろう。

■書誌情報

「若奥さまのア・ブ・ナ・イ趣味」も「それ行け!奥秩父研究所」も同じ単行本に収録されている。青少年健全育成条例にも引っかからず、現在でも入手できる。(※追記)絶版マンガ図書館にも収録されている。会員登録すれば無料で読むことができる。

単行本:あろひろし『若奥さまのア・ブ・ナ・イ趣味』 (少年キャプテンコミックススペシャル、1990年)

絶版マンガ図書館:あろひろし『若奥さまのア・ブ・ナ・イ趣味』

■広告■


■広告■

この眼鏡っ娘マンガがすごい!第31回:高河ゆん「グラス・マジック」

高河ゆん「グラス・マジック」

光文社単行本描きおろし1988年

031_02主人公の大山春海ちゃんは、眼鏡っ娘。水泳部の金井くんに恋しているけれど、恥ずかしがり屋なので告白なんてとんでもない。特にコンプレックスなのが、眼鏡。春海ちゃん家族は一同揃って近眼で、一家総出で検眼に行く予定になっていたりするくらいだ。
そんなわけで、おまじないに頼ってばかりで行動に移せない眼鏡っ娘。金井くんに水泳部に誘われても、眼鏡をかけたままでは泳げないからと、しり込みしてしまう。そこに追い打ちをかけるように、美人マネージャーがイジワルをする。しょんぼりする眼鏡っ娘。「この眼鏡さえ外せたら」全部がうまくいくのではないかと考えてしまう。しかし、溺れた後輩を助けに金井くんが海に飛び込んだとき、眼鏡っ娘の心に大きな変化が起こる。おまじないなんかよりも、もっと確かなことができるはずだと、自分の中にあった勇気に気が付く。金井くんが無事に戻ってきたときに、眼鏡っ娘が勇気を振り絞って紡ぎだした言葉が、実に見事だった。

031_03

「眼鏡かけたまま泳ぐくらいこんじょーでガンバリます!」。そう、これだ。眼鏡を外せばうまくいくなんて、そんなオカルトあるわけがない。眼鏡と共に生きる決意を固めて、全てがうまく回り始める。金井くんも、眼鏡をかけた君のことが好きなんだ。

031_01高河ゆんと言えば、80年代後半に彗星のごとく現れて、ニューウェーブの旗手として一気にブレイクし、現在でも多方面で活躍を続ける言わずと知れたトップクリエイターだ。一般にはメガネ男子を好んで描くことで知られているが、実は眼鏡っ娘方面でも素晴らしい業績を幾多も積み重ねていることは、もっと強調されてよい。商業デビューから間もない時期に描かれた本作では、ストーリー展開や眼鏡の描画様式においては典型的な70年代オトメチックを踏まえながら、セリフ回しにさすがのセンスが光っている。「眼鏡かけたまま泳ぐくらいこんじょーでガンバリます!」というセリフは汎用性が高いので、ぜひ「眼鏡かけたまま○○○くらいこんじょーでガンバリます!」と、いろいろな場面で積極的に使わせていただきたいっ。
高河ゆんが描く他の素晴らしい眼鏡っ娘については、改めて機会を設けて愛でていきたい。オトメチックからの脱却というパラダイムシフトを考える上でも、重要なケーススタディになってくるだろう。

■書誌情報

単行本:高河ゆん『マインドサイズ』(KOBUNSHA COMIC、1988年)に所収。

■広告■


■広告■

この眼鏡っ娘マンガがすごい!第19回:鈴木由美子「Eかもしんない!」

鈴木由美子「Eかもしんない!」

講談社『Fortnightly mimi』1988年No.6~No.20

少女マンガの中には男性が入っていきやすい部類の作品があって、歴史的には眼鏡っ娘はそこを踏み台にして飛躍するきっかけを掴むのだが、残念ながら本作は最も男性が入りにくい部類の作風だと思われる。特に絵柄は男性の好みからはおそらく遠く離れており、読もうというモチベーションが湧きにくい恐れがある。だが、ぜひとも先入観を捨てて手に取ってほしい、絶対に埋もれさせてはいけない傑作の眼鏡っ娘マンガだ、というか、ヒロインの恋愛相手の樹由(きよし)の超絶メガネスキーぶりをなんとしてでも褒め称えなければならないのだ!

ヒロインの眼鏡っ娘大学生=秋絵は、血の繋がらない弟の樹由のことが好き。しかし血が繋がっていないとはいえ、弟に告白することもできない。一方、弟の樹由のほうも姉の秋絵のことを好きだった。が、こちらも独り立ちするまでは告白できないと考えており、表面上は普通の姉弟として暮らしている。そんななか、秋絵は弟のことをあきらめて、彼氏を見つけようと眼鏡を外して合コンにでかけようとする。このとき、玄関で秋絵を見送る樹由のメガネスキーぶりが素晴らしい!

019_03

化粧をして合コンに向かう秋絵を呼び止める樹由。「キレイ」と言ってもらえると思って喜ぶ秋絵に、樹由は「メガネ、ほらメガネ忘れてるよ」と言う。しかし樹由の思いは届かず、秋絵はふてくされて玄関を飛び出す。残された樹由の、かわいそうな姿。眼鏡を手に呆然とする姿に、どれだけ眼鏡のことを思っていたか、哀愁が痛いほど伝わってくる。

019_04秋絵が合コンにでかけた後も、樹由は眼鏡を持ったまま、ぼーっと玄関で待ち続ける。どれだけ秋絵に眼鏡をかけてほしかったか。眼鏡を外してしまった秋絵にどれだけガッカリしたか。気持ちは、本当によくわかる。

ま、最終的には樹由の思いが通じて、秋絵は眼鏡をかけなおすんだけどね。よかったよかった。

そして連載第12回目の最終回では、いよいよ樹由と秋絵が結婚する。この結婚式がすばらしい。なんと、秋絵は眼鏡をかけたままウェディングドレスを着るのだ。あの小野寺浩二ですら実現し得なかった眼鏡de結婚式を、この樹由という男はやり遂げるのだ。メガネスキーの本懐である。私も、こうありたい。

■書誌情報

単行本:鈴木由美子『Eかもしんない!』全2巻完結 (講談社コミックス、1987年) 安く手に入るのは、当時人気があって数が大量に出ているから。ちなみに「由美子」という名前の作家は、みんななぜか眼鏡っ娘に優しい傾向がある。

019_01

■広告■


■広告■