この眼鏡っ娘マンガがすごい!第116回:森薫「エマ」

森薫「エマ」

エンターブレイン『コミックビーム』2002年1月~08年3月

言わずと知れた国民的メガネメイドマンガだ。メイドについてはその筋の人々にお任せして、眼鏡描写の素晴らしさについて確認しよう。

まず訴えたいのは、第2話のサブタイトルが「眼鏡」になっているという事実だ。眼鏡っ娘に一目惚れした主人公のウィリアム・ジョーンズは、新しい眼鏡をプレゼントしようという行動に打って出る。

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鳥は飛んでるし、猫は歩いているし、子供も転んでいるから、眼鏡っ娘に眼鏡をプレゼントすることに全く問題ないのである。我々もどんどん眼鏡っ娘に眼鏡をプレゼントしていこう。
この回では、エマが初めて眼鏡をかけたときの回想シーンも描かれている。この描写が実に素晴らしい。

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眼鏡をかけたときの素直な感動が瑞々しく表現されている。一人の眼鏡っ娘が誕生した瞬間に立ち会えた我々も、大満足。
このシーンを見てもわかるように、本作の特徴は、セリフでの説明を極力排し、絵による表現にこだわっているところにある。この「絵による表現」への徹底は、眼鏡描写にも極めて大きな威力を発揮している。

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眼鏡をかけてスイッチ・オンする描写では、言葉による一切の説明を排除している。だからこそ、メガネ・オンの決定的な素晴らしさが、まさに問答無用で示されている。
そして、眼鏡プレゼント+絵による眼鏡描写が素晴らしくミックスされたシーンが、単行本7巻にある。割れてしまったレンズを新しいものに取り替えるシーンだ。割れたレンズを新調するということは、言うまでもないことではあるが、ギクシャクしていた二人の関係が修復され、希望に満ちた新しいビジョンが与えられることの象徴である。

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セリフがないのに、この描写の説得力。眼鏡というものが希望と幸福をもたらすアイテムであることがしっかりと伝わってくる。

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ああ、もう、かわいなあ!!
眼鏡によって世界が変わったことが、極めて高い説得力を持って描かれている。また、二人が出会って直後の第2話では眼鏡プレゼントが実現しなかったのに対して、フィナーレに向かう重要な場面で眼鏡プレゼントが実現したということで、眼鏡というアイテムの扱いが二人の距離を暗示していることがわかる。

そして本作が不朽の名作であることを決定的に示したのは、フィナーレ、二人の結婚式の描写である。

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ウェディング・ドレスに、眼鏡。あの小野寺浩二ですら成し遂げられなかった眼鏡de結婚式を、ウィリアム・ジョーンズは実現したのだ。右下のコマで、ウィリアムがエマを振り返って誇らしげな表情を浮かべているが。「おれは眼鏡de結婚式を成し遂げたぜ!」と思っているような、誇らしげな表情だ。
最初は一目惚れした眼鏡っ娘に眼鏡をプレゼントしようとしていた男が、最後には眼鏡っ娘と眼鏡のまま結婚式。これぞ男の本懐。眼鏡で始まり、眼鏡で終わる。徹頭徹尾、眼鏡の素晴らしさを前面に打ち出してくれる、素晴らしい作品である。全国民の共通教養としたい。

■書誌情報

単行本全10巻完結。電子書籍で読むこともできる。7巻で本編が完結、8~10巻は外伝。19世紀末のイギリスを解説した副読本も情報満載で面白い。眼鏡を解説した項目など、勉強になった。しかしこの作品がジョジョ第一部と同じ時代を扱っていることを考えると、なかなか趣深い。もしもエマさんがジョースター家のメイドだったら。キスするときに「ズキューン」てオノマトペになるのか。

単行本全10巻完結セット:森薫『エマ』エンターブレイン、2002-08年
副読本:森薫・村上リコ『エマ ヴィクトリアンガイド』エンターブレイン、2003年

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第79回:須田さぎり「メガギフト」

須田さぎり「メガギフト」

メディアワークス『電撃帝王』2004年Vol.1~3
エンターブレイン『comic B’s-LOG』2007年9~10号

眼鏡で世界を救うために活動する男、目々澤(めめさわ)。目々澤は、日々路上で少女たちに眼鏡をかけさせている。そんな眼鏡にすべてを賭ける男が、理想の眼鏡素体と出会うところから物語が始まる。その理想素体少女に眼鏡をかけさせることができれば、目々澤の野望が達成できるのだ。

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理想素体少女の姉ミツルも、ひそかに眼鏡活動を続けていた。目々澤とミツルは「全人類に眼鏡を装着させる」という同じ理想を抱いていた。だがしかし、二人は眼鏡観が異なっていた。ミツルは、ズレ眼鏡が許せなかったのだ。眼鏡のジャスト・オンを断固主張するミツルに、目々澤が立ち向かう。

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目々澤は叫ぶ。「メガネの可能性は我々が封じてしまってよいものではない。メガネはもっと自由であるべきだ!!メガネをびくびるなっっ!!!!」。目々澤の眼鏡オーラに圧倒されるミツル。理想の眼鏡素体少女が、目々澤に圧倒的な眼鏡力を与えたのだ。戦え目々澤!世界に平和が訪れるまで、少女たちに眼鏡をかけてかけてかけまくるのだ!

この目々澤の「メガネはもっと自由であるべきだ!!」というセリフ、読んだ当時は実はあまりピンと来ていなかったけど、10年経ってようやくその味わいが分かってきた気がする。私もかつては原理主義的に「眼鏡、かくあるべし!」と信じていたけれど、それは眼鏡が秘めたポテンシャルを小さく見積もることでもあった。単行本の後書きで著者も触れているけれど、この10年で眼鏡をとりまく環境は大きく変化した。20世紀からは想像できなかった世界が、いま、眼前に広がっている。私が思っていた以上に眼鏡のポテンシャルが凄まじかったということだ。この先も、きっとそうだろう。我々自身の思い込みだけで眼鏡の可能性を閉じ込めてはいけない。その思いが目々澤の言う「メガネはもっと自由であるべきだ!!」という言葉に込められている。

というわけで、目々澤の活躍は続く。

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うむ。素晴らしい。

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うむ。素晴らしい。
しかし理想の眼鏡素体少女に目々澤が告白されたときのエピソードには、ひっくり返った。本当に眼鏡かけてない女は眼中にないのな。目々澤には幸せになってもらいたいと、心の底から思う。

■書誌情報

079_05同名単行本に全話所収。男性向媒体の『電撃帝王』で連載が始まって、女性向媒体の『comic B’s-LOG』で連載終了するという他にあまりない掲載形態だが、媒体が変わっても目々澤の活躍ぶりは一緒。
著者は強烈なメガネ君マンガも描いている。タイトルが「ひざまずいてメガネをかけろ」だからなあ。初めて見た時は本当にびっくりした。

単行本:須田さぎり『メガギフト』(B’s LOG Comics、2007年)

以下はメガネくんマンガ。
単行本:須田さぎり「ひざまずいてメガネをかけろ」(B’s-LOG COMICS、2006年)
単行本:須田さぎり「きみのくちでメガネをたたえよ」(B’s LOG Comics、2008年)

御本人が凛々しい眼鏡美人さんで、お話しするときはいつも舞い上がっていたのだった。

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第18回:たもりただぢ「烏丸学園ガンスモーキーズ」

たもりただぢ「烏丸学園ガンスモーキーズ」

エンターブレイン『TECH GIAN』2005年1月号~2006年8月号

この作品、絵を一瞬見るだけで、眼鏡っ娘マンガだ!とすぐにわかる。誰でもわかる。私は仕事上の都合もあって『TECH GIAN』誌を毎月読んでおり、本作は連載開始時から見ているのだが、初めて見た時は、話の内容に入る前に何度も何度も繰り返し絵をガン見してしまった。激しく魂を揺さぶられる衝撃だった。だって、みんなメガネ(DAIGO流ならMMとなるところ)だったのだ!

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いちおう眼鏡じゃないキャラも数人出てくるのだが、とにかく男も女も眼鏡キャラに満ち溢れた作品だ。主人公も、ヒロインも、頼りになる主人公の味方も、ラスボスも、みんな眼鏡なのだ。そして描かれるキャラクターたちには、眼鏡だからといって何かしらのバイアスがかかったような性格付けは一切なされない。眼鏡だから、眼鏡。そしてガン×ソードの学園アクション。画面の大半が眼鏡で覆い尽くされるアクションマンガは、他に見ることはできないだろう。そして、見どころはアクションだけでなく、眼鏡たちの成長に読後感が爽やかほっこり。全2巻を読み終わった後に、カバーを外して、また眼鏡にほっこり。

ところで、絵柄がたもりただぢに酷似していて、妹?ということになっている路杏るうも、メガネくん×眼鏡っ娘(というか、女装ショタ眼鏡やふたなり眼鏡など、トランスジェンダーで眼鏡×眼鏡)な強烈な作品を残している。一般的にはアブノーマルな設定に注目が集まっているが、その前にまずは眼鏡へのこだわりに注目してほしい作品だ。

■書誌情報

単行本:たもりただぢ『烏丸学園ガンスモーキーズ』全2巻完結(エンターブレイン、2007年) amazonだと中古でしか手に入らないのかな?

単行本:路杏るう『Girl to love』 (メガストア、2002年) 18禁。大判サイズのため、広い画面で綺麗な絵が見られて嬉しい。

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