この眼鏡っ娘マンガがすごい!第20回:小野寺浩二「キミとボクとのインフィニティ」

小野寺浩二「キミとボクとのインフィニティ」

竹書房『まんがライフMOMO』連載

まあ、いまさら私が語るまでもないのだが、眼鏡っ娘マンガ界四天王の一人、小野寺浩二のものすごい眼鏡っ娘作品である。
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とりあえず小野寺浩二初心者に何かを薦めるとしたら、本作からがいいような気がする。シャレにならないキチガイどもが大活躍している他の作品から読ませると、ドン引きされるならまだマシで、場合によってはブロックされかねない恐れがある。本作は良質ラブコメ成分が含まれていて、まだ入りやすいんじゃないだろうか。

とはいえ、もちろん手を抜いているわけではなく、良質なラブコメテイストを保ちながら、ものすごい濃度の眼鏡だ。全編が高密度の眼鏡エピソードで充満されているだけでなく、眼鏡のあげかた講座など実践的に役に立つ知識・技能も盛りだくさんで、本作を知らずに眼鏡萌えを僭称することなど許されないという気持ちになってくる。

020_03その中でも特に最も私の心に響いたのは、finalエピソードだ。なぜなら、メガネスキーにとって最も恐ろしい実存的問題に、真正面からぶち当たっていったからだ。
我々メガネスキーは、眼鏡っ娘が好きだ。その心に嘘や偽りはない。しかし眼鏡っ娘が好きだという思いが純粋であれば純粋であるほど、一つの矛盾に悩むことになる。「めがねならだれでもいい」のではないか? 一人の眼鏡っ娘を愛するというとき、相手の人格を尊重するのではなく、眼鏡だから好きなのではないかという疑問。その疑問に体当たりで勝負した西川魯介は『屈折リーベ』という不朽の名作を残したわけだが、本作もその最大のアポリアに逃げることなく取り組み、スペシャルな答えを見せつけてくれた。眼鏡に真剣に取り組んだ作者だからこそ、他の誰にも真似できない答えを見いだせる。生半可な気持ちでは絶対に出てこない解答は、ぜひ自分の目で確かめてほしい。私は感動で打ち震えた。

■書誌情報

020_01現在、電子書籍で読むことができる。

Kindle版:小野寺浩二『キミとボクとのインフィニティ』(バンブーコミックス全1巻、2009年)

本作のノリが大丈夫だったら、ぜひ続いて聖典「妄想戦士ヤマモト」に進んで、小野寺ワールドにのめりこんでいきたい。

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第19回:鈴木由美子「Eかもしんない!」

鈴木由美子「Eかもしんない!」

講談社『Fortnightly mimi』1988年No.6~No.20

少女マンガの中には男性が入っていきやすい部類の作品があって、歴史的には眼鏡っ娘はそこを踏み台にして飛躍するきっかけを掴むのだが、残念ながら本作は最も男性が入りにくい部類の作風だと思われる。特に絵柄は男性の好みからはおそらく遠く離れており、読もうというモチベーションが湧きにくい恐れがある。だが、ぜひとも先入観を捨てて手に取ってほしい、絶対に埋もれさせてはいけない傑作の眼鏡っ娘マンガだ、というか、ヒロインの恋愛相手の樹由(きよし)の超絶メガネスキーぶりをなんとしてでも褒め称えなければならないのだ!

ヒロインの眼鏡っ娘大学生=秋絵は、血の繋がらない弟の樹由のことが好き。しかし血が繋がっていないとはいえ、弟に告白することもできない。一方、弟の樹由のほうも姉の秋絵のことを好きだった。が、こちらも独り立ちするまでは告白できないと考えており、表面上は普通の姉弟として暮らしている。そんななか、秋絵は弟のことをあきらめて、彼氏を見つけようと眼鏡を外して合コンにでかけようとする。このとき、玄関で秋絵を見送る樹由のメガネスキーぶりが素晴らしい!

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化粧をして合コンに向かう秋絵を呼び止める樹由。「キレイ」と言ってもらえると思って喜ぶ秋絵に、樹由は「メガネ、ほらメガネ忘れてるよ」と言う。しかし樹由の思いは届かず、秋絵はふてくされて玄関を飛び出す。残された樹由の、かわいそうな姿。眼鏡を手に呆然とする姿に、どれだけ眼鏡のことを思っていたか、哀愁が痛いほど伝わってくる。

019_04秋絵が合コンにでかけた後も、樹由は眼鏡を持ったまま、ぼーっと玄関で待ち続ける。どれだけ秋絵に眼鏡をかけてほしかったか。眼鏡を外してしまった秋絵にどれだけガッカリしたか。気持ちは、本当によくわかる。

ま、最終的には樹由の思いが通じて、秋絵は眼鏡をかけなおすんだけどね。よかったよかった。

そして連載第12回目の最終回では、いよいよ樹由と秋絵が結婚する。この結婚式がすばらしい。なんと、秋絵は眼鏡をかけたままウェディングドレスを着るのだ。あの小野寺浩二ですら実現し得なかった眼鏡de結婚式を、この樹由という男はやり遂げるのだ。メガネスキーの本懐である。私も、こうありたい。

■書誌情報

単行本:鈴木由美子『Eかもしんない!』全2巻完結 (講談社コミックス、1987年) 安く手に入るのは、当時人気があって数が大量に出ているから。ちなみに「由美子」という名前の作家は、みんななぜか眼鏡っ娘に優しい傾向がある。

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第18回:たもりただぢ「烏丸学園ガンスモーキーズ」

たもりただぢ「烏丸学園ガンスモーキーズ」

エンターブレイン『TECH GIAN』2005年1月号~2006年8月号

この作品、絵を一瞬見るだけで、眼鏡っ娘マンガだ!とすぐにわかる。誰でもわかる。私は仕事上の都合もあって『TECH GIAN』誌を毎月読んでおり、本作は連載開始時から見ているのだが、初めて見た時は、話の内容に入る前に何度も何度も繰り返し絵をガン見してしまった。激しく魂を揺さぶられる衝撃だった。だって、みんなメガネ(DAIGO流ならMMとなるところ)だったのだ!

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いちおう眼鏡じゃないキャラも数人出てくるのだが、とにかく男も女も眼鏡キャラに満ち溢れた作品だ。主人公も、ヒロインも、頼りになる主人公の味方も、ラスボスも、みんな眼鏡なのだ。そして描かれるキャラクターたちには、眼鏡だからといって何かしらのバイアスがかかったような性格付けは一切なされない。眼鏡だから、眼鏡。そしてガン×ソードの学園アクション。画面の大半が眼鏡で覆い尽くされるアクションマンガは、他に見ることはできないだろう。そして、見どころはアクションだけでなく、眼鏡たちの成長に読後感が爽やかほっこり。全2巻を読み終わった後に、カバーを外して、また眼鏡にほっこり。

ところで、絵柄がたもりただぢに酷似していて、妹?ということになっている路杏るうも、メガネくん×眼鏡っ娘(というか、女装ショタ眼鏡やふたなり眼鏡など、トランスジェンダーで眼鏡×眼鏡)な強烈な作品を残している。一般的にはアブノーマルな設定に注目が集まっているが、その前にまずは眼鏡へのこだわりに注目してほしい作品だ。

■書誌情報

単行本:たもりただぢ『烏丸学園ガンスモーキーズ』全2巻完結(エンターブレイン、2007年) amazonだと中古でしか手に入らないのかな?

単行本:路杏るう『Girl to love』 (メガストア、2002年) 18禁。大判サイズのため、広い画面で綺麗な絵が見られて嬉しい。

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第17回:やまだないと「僕と彼女と彼」

やまだないと「僕と彼女と彼」

角川書店『ヤングロゼ』1995年5月号

最初に断わっておくと、本作は厳密に言えば「眼鏡っ娘マンガ」とは呼びにくい。とはいえ、他に代わりの効かない眼鏡エピソードを描いているので、きちんと眼鏡っ娘史に留めておきたい。

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017_02本作の主人公は、兄、姉、弟の三人兄弟。このうち眼鏡屋を経営している兄のエピソードが素晴らしい。まず朝食の場面で弟の彼女を一目見て視力が落ちていることを見抜き、眼鏡を作るよう勧める。そのスゴワザに弟の彼女は「えっ!?」と驚くが、眼鏡マンたるもの、ぜひこうありたい。

兄が眼鏡のフィッティングをする様子も描かれる。こういうシーンをマンガで見ることはなかなかない。そして視力が落ちたと見抜かれた弟の彼女が眼鏡を作りにやってくるが、ここのシーンが、とてもおしゃれで、印象に残る。
017_03フィッティングのためにトライアルフレームをかけさせる際、さりげなく「ちゅっ」といく。惚れてまうやろ! そしてトライアルフレーム状態の眼鏡っ娘というのは、なかなか貴重な絵かもしれない。

全体として眼鏡が物語に重要な位置を占めるわけではない(話自体は面白い)が、この眼鏡屋のお兄さんキャラは他に代わりがいないユニークな眼鏡者なので、見ておいて損はないと思う。できれば、こういう人に私はなりたい。

■書誌情報

単行本:やまだないと『バイエル<なつびより>』(Ohta comics、1999年)に所収。手に入りやすそう。

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第16回:くらもちふさこ「うるわしのメガネちゃん」

くらもちふさこ「うるわしのメガネちゃん」

集英社『別冊マーガレット』1975年9月号

016_01前回「メガネちゃんのひとりごと」に続いて、くらもちふさこ作品。眼鏡エピソードという意味では、この作品のほうが純度が高い。

ヒロインの眼鏡っ娘ヨーコは、家が眼鏡屋さん。検眼士の高貴さんに憧れているが、眼鏡がコンプレックスで、告白することもできない。そんななか、高貴さんの弟で本作のメガネスキーヒーロー、幸路が登場する。この幸路が並々ならぬメガネスキーで、彼の行動や発言の一つ一つが心にしみる。まず登場シーンが衝撃的。

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「ヘエ、メガネ屋の娘が近眼かあ」。並みのメガネスキーでは、一生のうちに一度たりともこんな劇的なセリフを吐く機会は与えられない。私も眼鏡屋の娘の眼鏡っ娘と知り合いたい。

016_03そしてヨーコが眼鏡を外そうと間違った決意をしてしまったときに、なんとか眼鏡をかけさせようと説得する姿が素晴らしい。

そして、さらに幸路は、自分がメガネスキーであるとカミングアウトする。かつて好きになった憧れの女性が「メガネをかけていた」ことをことさら強調し、さらに「とてもメガネの似あう人だけど、ヨーコちゃんはもっと似あうと思ってる」と説得を続ける。ふられた理由を、ヨーコには「メガネのせい」だと言われるが、「おれ、かけたほうがひきしまるもん」と、意に介さない。見上げたメガネスキー魂。この男、本物のメガネスキーである。見習いたい。

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しかし幸路の説得の甲斐なく、ヨーコの決心は変わらない。そこで幸路は賭けに出る。もしもヨーコが眼鏡なしで生活することができたら、眼鏡が必要ないことを意味する。しかし不便なことが明らかだったときは、眼鏡は切っても切り離せない関係にあることを意味する。幸路は、ヨーコにとって眼鏡が体の一部であることを証明しようとしたのだ。そのときのモノローグが素晴らしい。

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「かけてほしいなメガネ。あの娘とても似あうんだから」。この男、完全に我々の同志である。
そしてヨーコは台風の中、眼鏡無しで大丈夫なことを証明しようと頑張るが、当然大丈夫じゃない。それどころか命の危険すら感じるような状況で、幸路は陰からヨーコを助ける。この男、自分が眼鏡っ娘のメガネの代わりを務めているのだ。男ならこうありたい。
しかし最後の最後、あと一歩で眼鏡無しになりそうなところで、幸路はヨーコの足を引っ掛けて邪魔をして、世界の真実を告げる。「メガネをかけたままでいいと思う」

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幸路の説得に、ついにヨーコが心を動かされ、メガネを受け入れる。幸路がヨーコにメガネをかけるシーンが非常に美しい。

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メガネをかけることによって「まぶしい世界」が戻ってくる。そしてヨーコはメガネをかけて初めて幸路を自分の目でしっかりと見る。自分のメガネの代わりを務めた男がまぶしく輝いていることを知ったのだ。我らがヒーロー、メガネスキー幸路の眼鏡への情熱が一人の眼鏡っ娘を救った、感動的な眼鏡物語だ。

■書誌情報

「メガネちゃんのひとりごと」と同じく単行本:くらもちふさこ『赤いガラス窓』 (マーガレット・コミックス、1977年)に所収。

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第15回:くらもちふさこ「メガネちゃんのひとりごと」

くらもちふさこ「メガネちゃんのひとりごと」

集英社『別冊マーガレット』1972年10月号

015_01くらもちふさこのデビュー作が眼鏡っ娘マンガだったことは、いくら強調しても強調したりない、極めて重要な事実だ。
1980年代のくらもちふさこと言えば、押しも押されぬ少女マンガの看板作家で、特に都会派感覚にあふれるオシャレな作風で一世を風靡した。平成の世でも新たな作風で読者を魅了し続ける、常に進化し続ける超一流作家だ。その天才くらもちふさこは、眼鏡っ娘マンガと共に我々の目の前に現れたのだ。

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主人公のアコは、眼鏡っ娘。しかし眼鏡にひどくコンプレックスを持っている。東くんに片思いしているが、眼鏡コンプレックスのために告白する勇気もない。
しかし、思いがけずに東くんに自分の思いを伝えてしまう眼鏡っ娘。近眼のため、眼鏡を外していたから、目の前にいたのが東くんだと気が付かなかったのだ。しかし、ここで東くんが見せた態度が、決定的に男前だった。

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「だってメガネかけてるのよ」と涙を見せる眼鏡っ娘に、東くんは「メガネはきみの魅力だぜ」と世界の真実を告げる。東くんのこのセリフによって、眼鏡っ娘のコンプレックスは溶けていったのだった。かっこいいぜ、東くん!

015_04 1972年のデビュー作なのに、既にコマ割りのテクニックがすごい。眼鏡っ娘がメガネを外して近眼なところでは、コマの枠線がふらふら揺れて視界がぼやけていることを表現するなど、当時のプロの水準からみても新しい試みを各所に確認できる。天才の片鱗がデビュー作から見られるのだ。そして、そのデビュー作が眼鏡っ娘マンガであり、しかも「メガネはきみの魅力だぜ」というセリフに明らかなとおり、眼鏡のまま少女が受け入れられるというストーリーであったことは、少女マンガ史を考える上で決定的に重要な事実だ。少女マンガで「メガネを外して美人」などというのは、力のない無能な作家が考えなしに描いているだけだ。力量があるスター作家は、眼鏡っ娘が眼鏡のまま幸せになる作品を描く。本作はその事実を端的に表している、雄弁な証拠と言えよう。

■書誌情報

単行本:くらもちふさこ『赤いガラス窓』 (マーガレット・コミックス、1977年)に所収。amazonではプレミア出品が多いが、まだ手に入りやすい部類か。

あるいは文庫本:くらもちふさこ『わずか5センチのロック』 (集英社文庫)にも所収。こちらのほうが手に入りやすそう。
または大型ムック本『くらもちふさこの本』 (1985年)にも所収されているが、激プレミア。

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第14回:竹内ゆかり「おしゃべり白書」

竹内ゆかり「おしゃべり白書」

秋田書店『ひとみ』掲載(1985年頃)

眼鏡で始まった恋が、眼鏡でトラブルになり、そして眼鏡で結ばれる。すべてが眼鏡によって紡がれる物語。メガネスキーの横田先輩がまぶしい、完成度の高い感動の眼鏡マンガだ。

014_02やよいちゃんは眼鏡っ娘。あこがれの横田先輩に近づくために放送部に入部しようとするが、入り口でショッキングな話を聞いてしまう。バカ丸出しな放送部員の勝木くんが「めがねはだめだ」と言っているのを聞いて、憧れの横田先輩も眼鏡のことを嫌っていると思い込んでしまったのだ! ショック!

014_03しかし本当は、人間ができている横田先輩は、眼鏡っ娘のことが大好きだったのだ。この場面で横田先輩が言うセリフがかっこいい。「オレ、めがねの似合う子なら、ほんとは好きなんだぜ」。爽やかな笑顔でビシっと決めるに相応しいセリフだ。私もいちどドヤ顔で言ってみたい。

014_05 ゆかりちゃんが横田先輩を好きになったのは、実は眼鏡がきっかけだった。ゆかりが眼鏡をこわして困っていたときに、横田先輩が助けてくれたのだ。そして眼鏡が直ってお礼に行ったとき、ゆかりちゃんの眼鏡姿を見て、横田先輩もゆかりのことを好きになる。ここの横田先輩のセリフも素晴らしい。「めがね似合うんだね…」。どんどん使っていきたいセリフだ。

014_07そして二人が結ばれるのも、もちろん眼鏡のおかげだ。放送室に忘れていった眼鏡を、横田先輩がゆかりちゃんにかけてあげる。ここでも「めがねの似合う子は好きなんだ」という決め台詞。かっこよすぎるぜ、横田先輩!!

世の中には、少女マンガでは最終的に眼鏡を外して幸せになる話が多いだろうと思い込んでいる人がいる。確かにそういうマンガもあるにはあるが、そんなくだらない話を描いた作家は、実は人気がなくなってすぐに消えている。人気少女マンガ家は、眼鏡を外してハッピーエンドなどというつまらない話は描かない。実力がある人気作家は、ほぼ例外なく、最終的に眼鏡をかけて幸せになるという物語を描いている。なぜなら、それが世界の真理だからだ。眼鏡を外した女に近寄ってくるのは、SEXしか頭にない脳無しのチンピラだけだ。女性の本当の幸せは眼鏡と共にある。無能な作家は眼鏡を外すことしか思いつかないが、力のある作家は眼鏡を上手にストーリーやキャラクター描写に組み込んでいく。本作も、『ひとみ』誌上で看板を張った作家ならではの本領が発揮されている。

■書誌情報

014_01単行本:竹内ゆかり「おしゃべり白書」 (ひとみコミックス、1985年)に所収。ゆかりが主人公なのは第2話。

新刊では手に入らないので古本に頼るしかないが、amazonだとプレミア出品しかないなあ。古本屋を丁寧に回れば200円で手に入るとは思う。


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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第13回:岸虎次郎「マルスのキス」

岸虎次郎「マルスのキス」

ポプラ社『COMIC PIANISSIMO』2006年vol.1~2007年vol.4

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眼鏡から始まり眼鏡に終わる、百合と眼鏡の奇跡的なコラボ作品。

013_02ギャル的生活を満喫していた由佳里は、席替えで眼鏡っ娘・美希の隣になる。最初は美希のことをネクラなガリベンと馬鹿にしていた由佳里だったが、美希が美術室のマルス像にキスしていた場面を偶然見かけたところから、急速に仲良くなる。眼鏡っ娘の素直さに触れているうちに、由佳里は次第に自分のギャル的生活に疑問を持つようになってくる。本当に自分はこんな生き方をしたかったのか? そんなある日、彼氏ができたと美希が由佳里に報告する。そこで由佳里は自分の本当の気持ちに気が付いて……

百合作品であると同時に、ストーリーの要に必ず眼鏡があるという、素晴らしい眼鏡作品。メガネ同志でキスをすると眼鏡がぶつかって「かちっ」と鳴るエピソードは、竹本泉も描いていたけれど、竹本泉の方は例のほんわか系なのに対し、本作のエピソードはとても切ない。そして温かい。切なくも温かい気持ちになれるのは、眼鏡っ娘が終始素直でまっすぐだからだろう。
013_03話も眼鏡的に素晴らしいが、ビジュアルも非常に秀逸。眼鏡をきちんと丁寧に描いてあって、とてもうれしい。特にすばらしいのは、あおりの眼鏡描写と、斜め後ろからの眼鏡描写。斜め後ろから眼鏡っ娘を見ると実際にはレンズの裏側が見えるのだが、それをきちんと描く作品はめったにない。本作はレンズの内側がきちんと見えて、それが極めてエロい。また、あおり角度の眼鏡描写は美しく描くことがとても難しいのだが、本作はさらっと描いてしまっていて、それが難しいことすら忘れさせてくれる。極めて高度な技術であることは間違いなく、そしてその技術は眼鏡に対するこだわりという裏付けがなければ不可能だろう。

ストーリー的にもビジュアル的にも眼鏡に対する深い理解が感じられる傑作だ。ありがとう、ありがとう。

■書誌情報

013_04どうやら新刊では手に入らなさそうなので古本に頼るしかないが、amazonだとプレミアがついちゃってて、ことごとく定価よりも高額に設定してある……。もっと広く行き渡ってほしい作品だなあ。

単行本:岸虎次郎『マルスのキス』 (PIANISSIMO COMICS、2008年)

ちなみに眼鏡同志でキスをしても、意識的に当てようとしなければ、なかなか当たらない。そこを意図的にカチカチ当てに行くのは、とても楽しいね☆


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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第12回:ひかわきょうこ「ちょっとフライデイ」

ひかわきょうこ「ちょっとフライデイ」

白泉社『ララ』1981年12月号~82年4月号

012_01眼鏡っ娘の弥生ちゃんは、とある金曜日に眼鏡を割ってしまったので、眼鏡を新調しにメガネ屋に行くことにした。が、近眼でまったく前が見えないため、ドジばかり。困っている弥生ちゃんを助けてくれたのは、ザンバラ髪でハスキー・ボイスの男性。顔はぼけぼけで全く見えなかったので、記憶の中のハスキーボイスを頼りにミスター・フライデイを探す眼鏡っ娘だったが、そう簡単には見つからない理由があった……。

嫌な人間がまったく出てこず、ストレスを感じずに楽しめて、ほわっと温かい気持ちになれる物語。近眼エピソードが効果的に散りばめられていて、眼鏡的にも納得の物語展開。特にミスター・フライデイと出会うくだりでは、眼鏡が大活躍。ミスター・フライデイのセリフ「これは、あの日買ったメガネかい?」には、眼鏡が繋いだ二人の絆が凝縮されている。眼鏡とは、二つのレンズを繋げる架け橋の象徴だったんだね。

012_02この作品は物語的にも近眼納得で素晴らしいのだが、かわいい眼鏡ビジュアルも必見。眼鏡を外したところよりも、眼鏡をかけているときのほうがきちんとかわいく描けているのが素晴らしい。めがねビジュアルの系譜を辿ると、本作は80年代眼鏡ビジュアルの本流に位置付けてよい作品だろうと思う。第11回で紹介した太刀掛秀子の作品が1980年で、本作は1981年連載開始。太刀掛秀子が70年代眼鏡ビジュアルを集大成したとすれば、それを引き継ぎながら80年代の眼鏡ビジュアルの方向性を示したのが本作と言えるだろう。両作を並べてみると、70年代から80年代への眼鏡ビジュアルの展開過程が分かりやすく見えるように思う。これを引き継ぎながらさらにビジュアルを推し進めて80年代半ばに花開く眼鏡っ娘萌えの基礎を作るのが竹本泉とかがみ♪あきらになるが、その話はまたの機会に。

012_03そういえば、委員長の仕掛け人・マンガ家の山本夜羽も、ひかわきょうこの眼鏡に大きな影響を受けていたと言っていたように記憶する。本作が眼鏡っ娘描画史の里程標として重要な位置づけを持つのは間違いないだろう。

■書誌情報

古本で容易に手に入る。古本で1円なのは、人気がないからではなくて、当時人気がありすぎて大量に数が出回ったから。

ひかわきょうこ『ちょっとフライデイ』 (花とゆめCOMICS、1982年)

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第11回:太刀掛秀子「まりの君の声が」

太刀掛秀子「まりの君の声が」

集英社『りぼん』1980年4月号~12月号

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とにかく絵がかわいい。太刀掛秀子の描く眼鏡っ娘は、可憐だ。一昨年開催したメガネっ娘居酒屋「委員長」に中村博文氏が出演したが、そのときに太刀掛秀子の絵が好きで、練習のお手本にしたと伺った。言われてみれば、確かに髪の毛や植物の繊細な描線やコマ割りなどの画面構成に面影があるような気がしてくる。70年代少女マンガの集大成とでもいえるような繊細かつ華やかな表現技術、特に絶品の眼鏡描写技術の素晴らしさは、今見ても色あせていない。

011_02本作ヒロインの眼鏡っ娘、西崎まりのは、大学生。あたたかく魅力的な声を持つまりのは、人形劇の世界に魅せられていた。メガネくんの部長と一緒に、大学の人形劇サークルで子供たちのために公演を続ける。そんなまりのに次第に惹きつけられていく主人公のよしみ君だったが……。

1970年代後半から80年ごろまで、集英社『りぼん』誌上を「乙女ちっく」が席巻する。特に「乙女ちっく」の中心にいたのが、陸奥A子、田渕由美子、太刀掛秀子の3人だった。特に眼鏡っ娘の歴史を考えたとき、りぼん「乙女ちっく」は決定的な役割を果たしている。本コラムでも「乙女ちっく」の意義については繰り返し言及することになるだろう。
本作は、「乙女ちっく」が成熟し、作画技術が一つの極点に達したところで描かれている。眼鏡っ娘をヒロインとして9か月間連載されるという、『りぼん』誌上に燦然と輝く眼鏡っ娘マンガの代表作と言ってよいだろう。

011_03しかし同じ「乙女チック」といっても、作風はまったく異なる。陸奥A子は超ポジティブ能天気、田渕由美子は近代的自我の萌芽、太刀掛秀子は繊細シリアス。この作品も、キャラクターの内的な葛藤を繊細に描ききることで、読んでいる最中に身悶えしてしまうような作品に仕上がっている。

そんなわけで、すかっとした娯楽を求めている人には太刀掛秀子作品はお勧めしにくいのだが、キャラクターの葛藤に付き合って一緒に泣いたり笑ったり、じっくり作品を読もうという人には、ぜひ手に取ってほしい作品だ。

■書誌情報

単行本は全2巻。現在、単行本は手に入りにくいが、文庫版(全1巻)はおそらく容易に手に入る。

文庫版:太刀掛秀子『まりのきみの声が』 (集英社文庫)

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