この眼鏡っ娘マンガがすごい!第15回:くらもちふさこ「メガネちゃんのひとりごと」

くらもちふさこ「メガネちゃんのひとりごと」

集英社『別冊マーガレット』1972年10月号

015_01くらもちふさこのデビュー作が眼鏡っ娘マンガだったことは、いくら強調しても強調したりない、極めて重要な事実だ。
1980年代のくらもちふさこと言えば、押しも押されぬ少女マンガの看板作家で、特に都会派感覚にあふれるオシャレな作風で一世を風靡した。平成の世でも新たな作風で読者を魅了し続ける、常に進化し続ける超一流作家だ。その天才くらもちふさこは、眼鏡っ娘マンガと共に我々の目の前に現れたのだ。

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主人公のアコは、眼鏡っ娘。しかし眼鏡にひどくコンプレックスを持っている。東くんに片思いしているが、眼鏡コンプレックスのために告白する勇気もない。
しかし、思いがけずに東くんに自分の思いを伝えてしまう眼鏡っ娘。近眼のため、眼鏡を外していたから、目の前にいたのが東くんだと気が付かなかったのだ。しかし、ここで東くんが見せた態度が、決定的に男前だった。

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「だってメガネかけてるのよ」と涙を見せる眼鏡っ娘に、東くんは「メガネはきみの魅力だぜ」と世界の真実を告げる。東くんのこのセリフによって、眼鏡っ娘のコンプレックスは溶けていったのだった。かっこいいぜ、東くん!

015_04 1972年のデビュー作なのに、既にコマ割りのテクニックがすごい。眼鏡っ娘がメガネを外して近眼なところでは、コマの枠線がふらふら揺れて視界がぼやけていることを表現するなど、当時のプロの水準からみても新しい試みを各所に確認できる。天才の片鱗がデビュー作から見られるのだ。そして、そのデビュー作が眼鏡っ娘マンガであり、しかも「メガネはきみの魅力だぜ」というセリフに明らかなとおり、眼鏡のまま少女が受け入れられるというストーリーであったことは、少女マンガ史を考える上で決定的に重要な事実だ。少女マンガで「メガネを外して美人」などというのは、力のない無能な作家が考えなしに描いているだけだ。力量があるスター作家は、眼鏡っ娘が眼鏡のまま幸せになる作品を描く。本作はその事実を端的に表している、雄弁な証拠と言えよう。

■書誌情報

単行本:くらもちふさこ『赤いガラス窓』 (マーガレット・コミックス、1977年)に所収。amazonではプレミア出品が多いが、まだ手に入りやすい部類か。

あるいは文庫本:くらもちふさこ『わずか5センチのロック』 (集英社文庫)にも所収。こちらのほうが手に入りやすそう。
または大型ムック本『くらもちふさこの本』 (1985年)にも所収されているが、激プレミア。

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第14回:竹内ゆかり「おしゃべり白書」

竹内ゆかり「おしゃべり白書」

秋田書店『ひとみ』掲載(1985年頃)

眼鏡で始まった恋が、眼鏡でトラブルになり、そして眼鏡で結ばれる。すべてが眼鏡によって紡がれる物語。メガネスキーの横田先輩がまぶしい、完成度の高い感動の眼鏡マンガだ。

014_02やよいちゃんは眼鏡っ娘。あこがれの横田先輩に近づくために放送部に入部しようとするが、入り口でショッキングな話を聞いてしまう。バカ丸出しな放送部員の勝木くんが「めがねはだめだ」と言っているのを聞いて、憧れの横田先輩も眼鏡のことを嫌っていると思い込んでしまったのだ! ショック!

014_03しかし本当は、人間ができている横田先輩は、眼鏡っ娘のことが大好きだったのだ。この場面で横田先輩が言うセリフがかっこいい。「オレ、めがねの似合う子なら、ほんとは好きなんだぜ」。爽やかな笑顔でビシっと決めるに相応しいセリフだ。私もいちどドヤ顔で言ってみたい。

014_05 ゆかりちゃんが横田先輩を好きになったのは、実は眼鏡がきっかけだった。ゆかりが眼鏡をこわして困っていたときに、横田先輩が助けてくれたのだ。そして眼鏡が直ってお礼に行ったとき、ゆかりちゃんの眼鏡姿を見て、横田先輩もゆかりのことを好きになる。ここの横田先輩のセリフも素晴らしい。「めがね似合うんだね…」。どんどん使っていきたいセリフだ。

014_07そして二人が結ばれるのも、もちろん眼鏡のおかげだ。放送室に忘れていった眼鏡を、横田先輩がゆかりちゃんにかけてあげる。ここでも「めがねの似合う子は好きなんだ」という決め台詞。かっこよすぎるぜ、横田先輩!!

世の中には、少女マンガでは最終的に眼鏡を外して幸せになる話が多いだろうと思い込んでいる人がいる。確かにそういうマンガもあるにはあるが、そんなくだらない話を描いた作家は、実は人気がなくなってすぐに消えている。人気少女マンガ家は、眼鏡を外してハッピーエンドなどというつまらない話は描かない。実力がある人気作家は、ほぼ例外なく、最終的に眼鏡をかけて幸せになるという物語を描いている。なぜなら、それが世界の真理だからだ。眼鏡を外した女に近寄ってくるのは、SEXしか頭にない脳無しのチンピラだけだ。女性の本当の幸せは眼鏡と共にある。無能な作家は眼鏡を外すことしか思いつかないが、力のある作家は眼鏡を上手にストーリーやキャラクター描写に組み込んでいく。本作も、『ひとみ』誌上で看板を張った作家ならではの本領が発揮されている。

■書誌情報

014_01単行本:竹内ゆかり「おしゃべり白書」 (ひとみコミックス、1985年)に所収。ゆかりが主人公なのは第2話。

新刊では手に入らないので古本に頼るしかないが、amazonだとプレミア出品しかないなあ。古本屋を丁寧に回れば200円で手に入るとは思う。


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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第13回:岸虎次郎「マルスのキス」

岸虎次郎「マルスのキス」

ポプラ社『COMIC PIANISSIMO』2006年vol.1~2007年vol.4

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眼鏡から始まり眼鏡に終わる、百合と眼鏡の奇跡的なコラボ作品。

013_02ギャル的生活を満喫していた由佳里は、席替えで眼鏡っ娘・美希の隣になる。最初は美希のことをネクラなガリベンと馬鹿にしていた由佳里だったが、美希が美術室のマルス像にキスしていた場面を偶然見かけたところから、急速に仲良くなる。眼鏡っ娘の素直さに触れているうちに、由佳里は次第に自分のギャル的生活に疑問を持つようになってくる。本当に自分はこんな生き方をしたかったのか? そんなある日、彼氏ができたと美希が由佳里に報告する。そこで由佳里は自分の本当の気持ちに気が付いて……

百合作品であると同時に、ストーリーの要に必ず眼鏡があるという、素晴らしい眼鏡作品。メガネ同志でキスをすると眼鏡がぶつかって「かちっ」と鳴るエピソードは、竹本泉も描いていたけれど、竹本泉の方は例のほんわか系なのに対し、本作のエピソードはとても切ない。そして温かい。切なくも温かい気持ちになれるのは、眼鏡っ娘が終始素直でまっすぐだからだろう。
013_03話も眼鏡的に素晴らしいが、ビジュアルも非常に秀逸。眼鏡をきちんと丁寧に描いてあって、とてもうれしい。特にすばらしいのは、あおりの眼鏡描写と、斜め後ろからの眼鏡描写。斜め後ろから眼鏡っ娘を見ると実際にはレンズの裏側が見えるのだが、それをきちんと描く作品はめったにない。本作はレンズの内側がきちんと見えて、それが極めてエロい。また、あおり角度の眼鏡描写は美しく描くことがとても難しいのだが、本作はさらっと描いてしまっていて、それが難しいことすら忘れさせてくれる。極めて高度な技術であることは間違いなく、そしてその技術は眼鏡に対するこだわりという裏付けがなければ不可能だろう。

ストーリー的にもビジュアル的にも眼鏡に対する深い理解が感じられる傑作だ。ありがとう、ありがとう。

■書誌情報

013_04どうやら新刊では手に入らなさそうなので古本に頼るしかないが、amazonだとプレミアがついちゃってて、ことごとく定価よりも高額に設定してある……。もっと広く行き渡ってほしい作品だなあ。

単行本:岸虎次郎『マルスのキス』 (PIANISSIMO COMICS、2008年)

ちなみに眼鏡同志でキスをしても、意識的に当てようとしなければ、なかなか当たらない。そこを意図的にカチカチ当てに行くのは、とても楽しいね☆


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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第12回:ひかわきょうこ「ちょっとフライデイ」

ひかわきょうこ「ちょっとフライデイ」

白泉社『ララ』1981年12月号~82年4月号

012_01眼鏡っ娘の弥生ちゃんは、とある金曜日に眼鏡を割ってしまったので、眼鏡を新調しにメガネ屋に行くことにした。が、近眼でまったく前が見えないため、ドジばかり。困っている弥生ちゃんを助けてくれたのは、ザンバラ髪でハスキー・ボイスの男性。顔はぼけぼけで全く見えなかったので、記憶の中のハスキーボイスを頼りにミスター・フライデイを探す眼鏡っ娘だったが、そう簡単には見つからない理由があった……。

嫌な人間がまったく出てこず、ストレスを感じずに楽しめて、ほわっと温かい気持ちになれる物語。近眼エピソードが効果的に散りばめられていて、眼鏡的にも納得の物語展開。特にミスター・フライデイと出会うくだりでは、眼鏡が大活躍。ミスター・フライデイのセリフ「これは、あの日買ったメガネかい?」には、眼鏡が繋いだ二人の絆が凝縮されている。眼鏡とは、二つのレンズを繋げる架け橋の象徴だったんだね。

012_02この作品は物語的にも近眼納得で素晴らしいのだが、かわいい眼鏡ビジュアルも必見。眼鏡を外したところよりも、眼鏡をかけているときのほうがきちんとかわいく描けているのが素晴らしい。めがねビジュアルの系譜を辿ると、本作は80年代眼鏡ビジュアルの本流に位置付けてよい作品だろうと思う。第11回で紹介した太刀掛秀子の作品が1980年で、本作は1981年連載開始。太刀掛秀子が70年代眼鏡ビジュアルを集大成したとすれば、それを引き継ぎながら80年代の眼鏡ビジュアルの方向性を示したのが本作と言えるだろう。両作を並べてみると、70年代から80年代への眼鏡ビジュアルの展開過程が分かりやすく見えるように思う。これを引き継ぎながらさらにビジュアルを推し進めて80年代半ばに花開く眼鏡っ娘萌えの基礎を作るのが竹本泉とかがみ♪あきらになるが、その話はまたの機会に。

012_03そういえば、委員長の仕掛け人・マンガ家の山本夜羽も、ひかわきょうこの眼鏡に大きな影響を受けていたと言っていたように記憶する。本作が眼鏡っ娘描画史の里程標として重要な位置づけを持つのは間違いないだろう。

■書誌情報

古本で容易に手に入る。古本で1円なのは、人気がないからではなくて、当時人気がありすぎて大量に数が出回ったから。

ひかわきょうこ『ちょっとフライデイ』 (花とゆめCOMICS、1982年)

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第11回:太刀掛秀子「まりの君の声が」

太刀掛秀子「まりの君の声が」

集英社『りぼん』1980年4月号~12月号

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とにかく絵がかわいい。太刀掛秀子の描く眼鏡っ娘は、可憐だ。一昨年開催したメガネっ娘居酒屋「委員長」に中村博文氏が出演したが、そのときに太刀掛秀子の絵が好きで、練習のお手本にしたと伺った。言われてみれば、確かに髪の毛や植物の繊細な描線やコマ割りなどの画面構成に面影があるような気がしてくる。70年代少女マンガの集大成とでもいえるような繊細かつ華やかな表現技術、特に絶品の眼鏡描写技術の素晴らしさは、今見ても色あせていない。

011_02本作ヒロインの眼鏡っ娘、西崎まりのは、大学生。あたたかく魅力的な声を持つまりのは、人形劇の世界に魅せられていた。メガネくんの部長と一緒に、大学の人形劇サークルで子供たちのために公演を続ける。そんなまりのに次第に惹きつけられていく主人公のよしみ君だったが……。

1970年代後半から80年ごろまで、集英社『りぼん』誌上を「乙女ちっく」が席巻する。特に「乙女ちっく」の中心にいたのが、陸奥A子、田渕由美子、太刀掛秀子の3人だった。特に眼鏡っ娘の歴史を考えたとき、りぼん「乙女ちっく」は決定的な役割を果たしている。本コラムでも「乙女ちっく」の意義については繰り返し言及することになるだろう。
本作は、「乙女ちっく」が成熟し、作画技術が一つの極点に達したところで描かれている。眼鏡っ娘をヒロインとして9か月間連載されるという、『りぼん』誌上に燦然と輝く眼鏡っ娘マンガの代表作と言ってよいだろう。

011_03しかし同じ「乙女チック」といっても、作風はまったく異なる。陸奥A子は超ポジティブ能天気、田渕由美子は近代的自我の萌芽、太刀掛秀子は繊細シリアス。この作品も、キャラクターの内的な葛藤を繊細に描ききることで、読んでいる最中に身悶えしてしまうような作品に仕上がっている。

そんなわけで、すかっとした娯楽を求めている人には太刀掛秀子作品はお勧めしにくいのだが、キャラクターの葛藤に付き合って一緒に泣いたり笑ったり、じっくり作品を読もうという人には、ぜひ手に取ってほしい作品だ。

■書誌情報

単行本は全2巻。現在、単行本は手に入りにくいが、文庫版(全1巻)はおそらく容易に手に入る。

文庫版:太刀掛秀子『まりのきみの声が』 (集英社文庫)

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第10回:西川魯介「SF/フェチ・スナッチャー」

西川魯介「SF/フェチ・スナッチャー」

白泉社『ヤングアニマル』1997年楽園増刊Vol.1~2000年増刊嵐Vol.4

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言わずと知れたメガネっこマイスター・西川魯介の傑作メガネSF。
主人公の女子高生・栗本玻瑠(くりもとはる)は眼鏡っ娘。その眼鏡っ娘がかけているメガネは、宇宙刑事だった! 犯人どもを追跡して地球に不時着したメガネ型の宇宙刑事は玻瑠に寄生し、宇宙の平和を乱す逃亡犯を追い続ける。敵は、上靴型やスクール水着型やブルマ型など、地球の物体に潜伏している。それを発見するには、地球人の唾液が試薬としてもっとも有効だった。ということで、逃亡犯を発見するために、玻瑠はブルマや上靴をぺろぺろ舐めるのだ・・・。

010_02うーん、なんと素晴らしい設定だろうか。この設定のおかげで、嫌がる眼鏡っ娘に自発的にブルマや上靴をぺろぺろと舐めさせることが、完全に合理的に実現できるのだ!すごい!
もちろんそういうフェティッシュな楽しみだけではなく、知っている人ならニヤリと笑えるディープなSFネタが満載されていて、何度読んでも楽しめる。知的でHENTAIな作品なのだ。

010_03逃亡犯の設定も毎回おかしい。主人公がかわいい眼鏡っ娘で既におなかいっぱいなのに、これでもかとさらに眼鏡っ娘を投入してくる。ありがとうありがとう。

こういった作品を読むにつけ、西川魯介が代わりのきかない作家であることを再認識する。西川魯介作品は、他の作家が逆立ちして地球を一周しようと絶対に生み出すことが不可能な作品ばかりだ。それらの中でも、この作品は、真摯に眼鏡と向き合った末に、とうとう眼鏡に愛された者だけが辿り着いた境地のように思える。眼鏡っ娘好きなら絶対に見逃すことのできない傑作だが、エッチな描写が多いので18歳未満は扱いに気を付けるように。

眼鏡っ娘史にパラダイムシフトを起こし、不朽の名を刻んだ西川魯介『屈折リーベ』については、またの機会に改めて検討したい。

■書誌情報

単行本は古本でも手に入るが、電子書籍で広く行き渡るようになったことは眼鏡っ娘的にも喜ばしい。

Kindle版:西川魯介『SF/フェチ・スナッチャー』第1巻 (白泉社ジェッツコミックス、2000年)

Kindle版:西川魯介『SF/フェチ・スナッチャー』第 2巻 (白泉社ジェッツコミックス、2001年)

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第9回:槻宮杏「メガネアパート」

槻宮杏「メガネアパート」

白泉社『ララDX』2010年9月号

009_01春瀬ゆいは、眼鏡っ娘、高1。祖父に頼まれてアパートの管理人を務めることになったが、他人との共同生活ができるかどうか不安でたまらない。不安を助長するように、そのアパートに住んでいたのは同学年のメガネ男子3人だった。しかも彼らはメガネを外すと人格が変化する「めがね体質」だったのだ!

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メガネ男子三人は、めがね体質がバレたら困るので、あの手この手で眼鏡っ娘を追い出そうとする。しかし眼鏡っ娘は様々な攻撃にもめげず、根性で頑張る。そんな姿勢に、メガネ男子三人の心も徐々に軟化し、眼鏡っ娘と次第に仲が良くなっていく。しかし、メガネ男子三人に恨みを持つ人間が、眼鏡っ娘に目を付けた。チンピラどもが眼鏡っ娘を拉致して三人の秘密を聞き出そうと画策する。悪の手に捕まって、ピンチに陥る眼鏡っ娘。

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眼鏡っ娘を捕えたチンピラどもは、「めがね外したら美少女☆」とか、極めて頭の悪いセリフを吐く。そんな馬鹿どもには、当然のように、天誅が降る。なんと眼鏡っ娘は、眼鏡をはずすと強気で無敵な喧嘩無双の暴走人格に変わってしまう、めがね体質だったのだ! 木端微塵に吹っ飛ばされるチンピラども。だから眼鏡をはずしちゃだめだって言っただろう。

009_05眼鏡を外して人格がチェンジするという仕掛けは、この作品の他にもいくつかある。この仕掛けが成立するのは、そもそも眼鏡というものが「かけている=ON」か「外している=OFF」か二者択一で、決して中間形態をとることがないからだ。これを眼鏡の「デジタル性」と呼ぼう。身長とか髪型とか目の色とか、眼鏡以外の属性にはこのデジタル性はない。いくつかのマンガは、この眼鏡のデジタル性を利用して様々なエピソードを作っていく。本作「メガネアパート」では、眼鏡のデジタル性を二重人格とリンクさせて、おもしろい物語に仕立てた。しかし、このデジタル性を女性の美醜と安易にリンクさせたとき、悲劇が起こる。現実には二重人格と眼鏡のデジタル性がリンクすることがあり得ないのと同様、女性の美醜と眼鏡のデジタル性がリンクすることもあり得ない。メガネのデジタル性は、あくまでもその特性を利用してエピソードを作るために有用なものではあっても、眼鏡の現実とはまったく関係がないことを肝に銘じておく必要がある。メガネを外して美人になるのはマンガの中だけであって、現実にはありえない。
それはともかく、この眼鏡のデジタル性が有効に活用されたときに、マンガ史上に画期的な表現「乙女ちっく」が生み出されることとなるが、その事情はまた今後の作品で確認していこう。

■書誌情報

単行本:槻宮杏『メガネアパート』 (花とゆめCOMICS、2011年)に所収。

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第8回:池美留奈「ニルの恋☆魔法陣」

池美留奈「ニルの恋☆魔法陣」

白泉社『花とゆめ』2009年12号

前回は約35年前のソバカス眼鏡っ娘マンガを見たが、センスが新しくなった平成の世にもソバカス眼鏡っ娘の伝統はしっかりと生きている。
主人公のニル・ギリスは、ちんちくりんのソバカス眼鏡っ娘。魔法学院に通って魔法を勉強している11歳。上級生に暴力を振るわれそうになったとき、さっそうと現れて助けてくれたのがクーロン先輩。それ以来、ニルちゃんはクーロン先輩に密かな恋心を抱き、よく放課後に二人で会うようになる。ニルちゃんは眼鏡の見た目のせいで「ガリベン」などと勘違いされているのだが、クーロン先輩も見た目が非常に恐ろしく、先生からも不良だと誤解を受けて日ごろからひどい扱いを受けている。しかしニルちゃんは他人を見た目で判断することがなく、普通にクーロン先輩と接するので、クーロン先輩も眼鏡っ娘とお話しするのがとても楽しかったりする。

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そんな折、学園でダンスパーティが開かれることとなった。大好きなクーロン先輩をダンスに誘いたい眼鏡っ娘だったが、突然現れた超美人に圧倒されて、先輩とまともに話をすることもできない。ちんちくりんでソバカスでメガネな自分に対するコンプレックスは強まるばかりで、放課後も先輩を避けるようになってしまう。

008_02そこで魔法の出番だ。眼鏡っ娘は魔法で美人に大変身する。身長が伸び、胸がでかくなり、ソバカスが消え、眼鏡も外れる。こうして美人になったら自信を持って先輩をダンスパーティに誘うことができる。と思ったけれども、中身が変わったわけではないので、やっぱり先輩の前から逃げ出してしまう。そんなニルを追いかけてくるクーロン先輩。どんなに見た目の姿が変わっても、人を見た目で判断しないクーロン先輩には、それが眼鏡っ娘だと分かったのだ。勇気を振り絞ってダンスに誘うニルに、クーロン先輩は優しく応えるのだった。めでたしめでたし。
そしてこの作品がとびきり上等なのは、エピローグの描写にある。ニルが大人になって美しく成長した姿が描かれるのだが、背が伸びてソバカスがなくなり胸が大きくなっているのに対し、眼鏡はしっかりとかけたままなのだ!やっほう! 背やソバカスや胸はニルにとってどうでもいい属性にすぎないが、眼鏡は本質だったということの象徴と言える。

この作品は、かなり純粋な「乙女チック」構造を示している。女の子の方はメガネな自分にコンプレックスを持っているけれど、できる男の方はそんな外見なんて全然気にしていないというか、少女自身をまるごと受け止めるという物語構成。絵柄や道具立ては昭和と平成では全く異なるが、乙女ちっく構造は今もしっかり少女マンガに生きている。

まあ、我々にとっては、外見に眼鏡があれば必要十分なんだがな!

■書誌情報

単行本:池美留奈『キスに従属』 (花とゆめCOMICS、2010年)に所収。

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第7回:舟木こお「メロウ・シトロン」

舟木こお「メロウ・シトロン」

秋田書店『ボニータ』1978年7月号

主人公の倉本久里は、そばかすも気にしてしまう眼鏡っ娘。イケメンの王子様に恋をしたけれど、そばかすと眼鏡にコンプレックスがあって、とてもじゃないけど告白なんかできない。遠くから見ているだけで満足。しかし美人の友達から、メガネを外すとかわいいと言われて、ついその気になってしまう。

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しかし、めがねをはずすとかわいいなんて、友達が本気で言っているわけではない。適当に口からデマカセを言っているだけで、そんなデタラメを真に受けるとバカを見る。実際、久里はメガネをはずして頑張ってみるが、王子様が気にかけてくれるはずもない。勘違いしたままメガネをはずして頑張る久里に対し、王子様と同じ部活で頑張っている正直な風間くんが、世界の真実を教える。

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「久里っぺって、めがねはずすと、まのぬけた顔になるなあ」

そんな風間くんの正直な言葉に久里は逆上するが、それは誰がどう見ても間違えないようのない世界の真実だ。眼鏡っ娘がメガネをはずして美人になるわけがない。まのぬけた顔になるのだ。メガネをかけていたほうが、絶対にかわいいのだ! 風間くん、正解!

久里はメガネなしで頑張ろうとするが、王子様にふられ、正直な風間くんのまっすぐな言葉に救われて、ようやく世界の真実に気が付き始める。風間くんは、ふたたび久里にメガネをかけさせる。

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「やっと久里っぺらしくなった。にあうぞ」。そうだ、眼鏡っ娘は眼鏡をかけてナンボなのだ。眼鏡の自分を応援し続けてくれる風間君のおかげで、久里はコンプレックスを解消し、ありのままの自分を受け入れることができるようになったのだった。めでたしめでたし。
そして風間くんは、なんで久里にメガネをかけてほしかったのか。実は風間くんは子供の時に絵本で見た眼鏡っ娘に恋していて、そのキャラクターに久里がそっくりだったのだ。そう、風間くんは筋金入りの眼鏡っ娘好きで、その恋を現実のものとした勇者だったのだ! 世界は、こうあってほしい。

■書誌情報

単行本:舟木こお『あこがれかよい路』  (プリンセス・コミックス、1979年)に所収。

私が確認した時点では1,300円くらいにプレミアがついていたが、古本屋を丁寧に回れば100円で手に入るはず。ちなみに作者ご本人のtwitterアカウントをみつけてプロフィールを確認したら、ご本人はどうも男性らしく、作品が乙女チックの塊だったから、そこそこ驚いた。

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この眼鏡っ娘マンガがすごい!第6回:中原みぎわ「恋なんてできっこない」

中原みぎわ「恋なんてできっこない」

小学館『少女コミックCheese!』2002年1月号~6月号増刊

006_01この作品の最大のみどころは、一人の少女が主体性を獲得して成長する様子が、メガネを通じてあますところなく表現されているところである。

主人公の杉本つぼみは、自分のことをブスだと思い込み、自信をまったく持てない眼鏡っ娘。そんなイジケ眼鏡っ娘に、イケメンの晴山くんが告白したところから物語が始まる。
しかし晴山くんがどれだけいっしょうけんめい説得しても、ひがみ根性が人格の根っこまでしみ込んだ眼鏡っ娘は、自分が愛されていることをなかなか認められない。そうこうしているうちに晴山親衛隊や元カノにいじめられて、眼鏡っ娘の心はさらに傷つけられ、ますます自分の殻に閉じこもってしまう。

晴山とつぼみがうまくいかなかったことは、最初のキスの時に眼鏡を外してしまったところに象徴的だ。晴山はつぼみにキスをしようとして眼鏡をはずし、つぼみに「あたし晴山がよく見えないんだけど」と言われたにも関わらず、「見なくていーよ」と言い放って、キスをする。しかし眼鏡っ娘の心はますますかたくなに晴山を拒む。眼鏡っ娘の心が閉ざされるのも無理はない。なぜなら晴山が眼鏡を外しながら言った「見なくていい」というセリフは、眼鏡っ娘の主体性を否定して、単に男が愛玩するだけのモノとして扱うという宣言だ。メガネを外すことは、女性の主体性を奪い去ることを意味する。

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しかし晴山の素晴らしいところは、「メガネをとったら美人」などという愚かなことを決して言わなかったところだ。晴山はつぼみをメガネのまま受け入れる。晴山は常にメガネのつぼみを応援する。心の底からメガネのつぼみをかわいいと思っている。そう、晴山は完全に眼鏡っ娘好きなのだ。外野からどれだけ反対されようと、ブス専だと馬鹿にされようと、眼鏡っ娘を愛する姿勢は微動だにしない。あきらめずにメッセージを伝え続けた晴山の熱意が実り、つぼみは心を開く。そして二人が結ばれたシーンの描写が、きわめて秀逸だ。

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セックス終了後、つぼみは言う。「あたしメガネかけていい? 晴山の顔ちゃんと見たいの」。「見る」という主体的な意志が、メガネをかけるという行為に象徴的にあらわれる。メガネをかけて真正面から晴山の顔をみつめる眼鏡っ娘。「今あたしのこと可愛い女の子だって思ったでしょ」という発言に込められた自信。つぼみが自分のことをブスだと思い込んで自信を持てなかったのは、自分のことを「見られる」だけの客体だと思っていたからだ。客体だと思っているから、他人の視線ばかりが気になる。しかしメガネをかけて「見る」主体となったとき、自分の意志で世界の見え方がまったく違うことを知る。メガネをかけることは、意志を持つ一人の人間として真正面から世界と向き合うことを意味する。他人の視線に左右されない自信が、ここではじめて生じるのだ。

自分に自信を持てない女の子こそ、メガネをかけて街に出よう。世界が違って見えるはずだ。

■書誌情報

つぼみと晴山の物語は、単行本『恋なんてできっこない』所収の4話と『赤いイチゴに唇を』所収の1話。メガネをかけて主体性を回復するのは『赤いイチゴに唇を』所収の「恋だけは放せない」。それぞれ電子書籍でも読むことができる。

単行本・Kindle版:中原みぎわ『恋なんてできっこない』 (フラワーコミックス、2002年)

単行本・Kindle版:中原みぎわ『赤いイチゴに唇を』 (フラワーコミックス、2002年)

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